Sep 02, 2026 column

アメリカで社会現象を巻き起こした“出口のない悪夢”――映画『バックルームズ』

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どこまでも続く謎の回廊――。インターネット発の都市伝説「バックルームズ」を、当時16歳で短編映像化したケイン・パーソンズ。その才能にA24が惚れ込み誕生した長編映画『バックルームズ』が、いよいよ日本上陸。史上最年少で全米興行収入ランキング初登場1位を成し遂げた20歳の俊英監督は、“見慣れた場所が突然牙をむく”恐怖をどう映画へ変えたのか。体感と考察が交差する、新時代の悪夢をネタバレなしでひも解く。

2012年に設立された映画会社A24。その歴史を塗り替える歴代No.1ヒットを記録 (8月28日現在で世界興収は3億9000万ドルを突破)したホラー映画『バックルームズ』が、9月4日に日本公開を迎える。本国では5月に封切られたが、歴史的な大ヒットを受けて日本でも前倒し公開となったというウワサだ。この『バックルームズ』だが、本国で同時期公開の『オブセッション 災愛』と共に現象化しており、A24だけでなくケイン・パーソンズ監督が「全米興行収入ランキングにおいて史上最年少(20歳) で初登場第一位を獲得」する新記録を成し遂げた。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999) や『イット・フォローズ』(2014)、『ミッドサマー』(2019)といった作品群がホラーというジャンルの表現領域を拡張したように、『バックルームズ』もまた次なるトレンドを確立していきそうではあるが――本作においては立ち位置が少々特殊だ。本稿ではそうした前提を整理したうえで、作品の中身をネタバレなしで紹介していく。

『バックルームズ』は、2022年に当時16歳だったパーソンズがYouTubeに投稿した9分超の短編映画を長編化したものとなる。こちらはファウンドフッテージもの(行方不明などになった人物が遺した記録映像を後から見つけた体のホラー。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』が有名)であり、自主映画を撮影していた少年が突如として永遠に続く謎の回廊に迷い込むさまがPOV(主観映像)形式で描かれていた。この短編が大いにバズり、パーソンズは一気に注目の若手クリエイターに躍り出る。その後、A24がパートナーとして名乗り出て2023年に劇場長編映画化の制作を発表、そこから約3年をかけてこの長編が出来上がったというわけだ。

ただ、バックルームズ自体のアイデアはパーソンズ発祥のものではない。インターネット上でミーム化された画像が発端となる。元々は画像掲示板サイト「4chan」で2019年に立てられたスレッド内で「なんだかおかしいと感じる画像を投稿しろ」という趣旨の“祭り”が行われ、くすんだ黄色の壁紙に覆われた不気味な空間を捉えた写真がアップされた。そこに「現実世界とは異なる異空間」「黄色い壁紙が延々と続き、蛍光灯の音が響く」「恐るべき“何か”がうろついている」といった基盤となる設定が匿名のユーザーにより書き添えられ、クリーピーパスタ(ネット上で加筆されながら拡散していく都市伝説)化していったというわけだ。また、本作で登場するような「本来人がいるはずなのに無人で不気味な空間」はリミナルスペースと呼ばれ、起源自体はさらに遡るものの、バックルームズという概念/コンテンツが広まっていくなかで付随して一般化していったという。‥‥といったような形でかなり複雑ではあるが(これでもかなり端折った説明ではある)、一言で表すならば「ネット界隈ではおなじみのネタ」にパーソンズが自身の創造性を加えて短編映画化→長編映画化して劇場公開、という過程を経た作品となる。そのためパーソンズはA24に働きかけ、バックルームズにまつわる要素に対して所有権を主張しない旨を発表した。