Aug 13, 2026 column

次世代ホラー映像作家はデジタルネイティブ!この夏『バックルームズ』『オブセッション 災愛』がハリウッドを変えた理由 (vol.93)

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この夏、ディズニー映画『マンダロリアン・アンド・グローグー』の週末興収を前週比69%減に追い込み、全米興行収入1位、8150万ドル (約134億円)、世界興収1億1800万ドル (約193億円) という快挙を成し遂げた『バックルームズ』。観客は若い。公開週末の観客の86%が35歳未満で、半数以上が25歳未満だったという。映画館にこの年齢層が足を向けなくなって久しい米劇場側にとっては、破格の出来事。今年はクリエイター向けプログラム「LIONS Creators」がカンヌライオンズで行われるほど、映像ビジネスのエコシステムが変化している。なぜメディア業界がこれほどまでに次世代の映像革命に期待しているのかを、映画『バックルームズ』と、現在、米ホラー映画の興行を牽引し続ける『オブセッション 災愛』から探ってみたい。

YouTubeからハリウッドへ

現在、約6400万人のYouTubeコンテンツ・クリエイターが世界中に存在するといわれている。フォーチュン・ビジネス・インサイツというマーケット・リサーチ会社のレポートによると、クリエイターエコノミー市場は今年、約3879億米ドル (約6兆3523億円) に達し、2034年までに2兆1163億5000万米ドル (約34兆6574億円)) に成長すると予測されている。市場の成長を牽引するコンテンツのトップはデジタルエンターテインメント。この夏、大手スタジオはYouTubeなどでデジタルネイティブたちが発信する人気コンテンツの争奪戦に忙しい。クリエイターが物事を動かす時代が到来している背景には、デジタルネイティブたちの映画『バックルームズ』『オブセッション 災愛』のヒットが大きな理由。

『ザ・リング』『THE JUON/呪怨』など、日本映画のハリウッドリメイクでも知られるプロデューサー、ロイ・リーは、この夏、最もホットなネットコンテンツと噂された「Siren Head」の映画化について、メジャー3社から同じ日に相談を受けたという。このように、次の大ヒットを目指してネットコンテンツが長編映画として開発されようとしている。新しいクリエイターを取り込みたいスタジオは必死だが、半信半疑のクリエイターの中には、ハリウッドとの契約を断り、YouTubeで自らのコンテンツをリリースすることを好む作家もいる。

映画『バックルームズ』のケイン・パーソンズも、そのうちの一人だった。パーソンズが生まれたのは、YouTubeが誕生した2005年。彼が制作したコンテンツ「The Backrooms」がネット上で話題になった。発信から約1カ月で多くの映画スタジオが長編映画化の話を持ちかけてきたが、10代だった彼はその話を断り、2022年から25年にかけて「The Backrooms」24エピソードをYouTubeで公開。2022年、16歳のときに公開した映像は、主に3DアニメーションソフトのBlenderを使用したものだ。パーソンズ監督がBlenderを使うきっかけとなったのは、VFXアーティスト、イアン・ヒューバートのYouTube映像だった。映画『マトリックス』のような複雑なVFX映像がコンピューターでいとも簡単に作れることに感化され、フィルムスクールに行かず、独学で映像制作を学んだケイン・パーソンズ監督は現在20歳。

YouTube発信の「The Backrooms」は、初回を見るだけでは今ひとつつかめないコンテンツだ。黄色い壁の部屋から、さらにまた別の部屋のような空間が現れ、この先に何があるのかと好奇心をくすぐられた人は、第2話を見てそのコンセプトにはまっていく。10分にも満たない短い映像の中で、主人公が成長する過程でどこかに置いてきた場所、その脳裏にしか残っていないバックルームが延々と続き、そこから逃れられない自らのトラウマが現在につながるという怖さが浮き彫りになる。心理世界の奥の奥へと導く窓のようなコンテンツについて、パーソンズ監督は、それが幼いときに訪れたホテルの広いロビーだったり、学校の廊下だったり、親戚のキッチンだったりと、自らの体の細胞の間を埋めて支える結合組織に入り込んだような、本来訪れることのない、人間の記憶の間にあるリミナルスペースに焦点を当てたという。そこには、観察者が一人で経験する不気味さが散在している。過去と現在、使用と未使用など、一人の人間の頭の中に形成された空間へどんどん入り込んでいくことで、脳裏に残った残像の数々を想像させる。

監督の父親はゲーム業界などで働いていたVFXアーティスト、母親は精神科医。監督が7歳のときに両親は離婚。母親に育てられながらも、父親は監督のVFXや特殊効果映像への興味を支え、今の監督のキャリアにつながったそうだ。さらに影響を受けたのは、日本のアニメ『進撃の巨人』『DEATH NOTE』『DEVILMAN crybaby』『いぬやしき』など多数。

長編となった映画には、『ソウ』のジェームズ・ワンと『パラノーマル・アクティビティ』のジェイソン・ブラムがプロデューサーとして関わり、主要キャストは、『それでも夜は明ける』『ドクター・ストレンジ』のキウェテル・イジョフォーと、『わたしは最悪。』『センチメンタル・バリュー』のレナーテ・レインスヴェ。

音、空間、そしてドッペルゲンガー。映画を見たあと、自分の中のバックルームを一つ一つ訪れてみるような感覚に包まれる。不気味でありながら、夢の延長のような不思議な後味がある映画だ。