Jun 17, 2021 interview

映画『いとみち』横浜聡子監督インタビュー「映画を撮りながら青森のことを知っていく」

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—今回初めてお仕事されて、豊川悦司さんの印象はいかがでしたか?

高校生の時、学校に行きたくなくてよく早退していたんですけど、それで街をぶらぶらしているときに豊川さんが映画の撮影で偶然青森に来てて、向こうからやってきて去っていく豊川悦司さんを見て「あートヨエツだー♪」と思って。それが一方的な初対面だったんですけど(笑)、そのときの印象と変わらないです。クールだけど、意見はちゃんと伝えてくれるし、誰に対しても冷静で真面目で、初めて一緒にやる監督にもこんなに真摯に向き合ってくださって、やっぱり豊川さんはかっこいいなって思います。

—キャスティングで意外だったのは、おばあちゃん役の方は女優さんではないのですね。お上手だったので役者さんだと思っていました。リハーサルなり演技の練習を多くされたのでしょうか?

おばあちゃん役の西川さんは、津軽三味線の名手である高橋竹山さんの一番弟子なんです。西川洋子さんは本当に豊かな人間性を持っていて、カメラの前でも臆さず、彼女の人間力であればお芝居も大丈夫だろうという勘はありました。唯一、いと とおばあちゃんが三味線の合奏をするというシーンがあって、そこの2人の姿や音の合わせ方というのは何回かリハーサルをしましたが。

三味線を奏で合う いと(駒井蓮)と いとの祖母(西川洋子)

—主演の駒井蓮さんの三味線は素晴らしかったですが、どのくらい練習されたのでしょう?また、劇中の音はそのまま彼女が弾いたものを使用しているのでしょうか?

練習は9ヶ月くらいで、音はそのまま駒井さんが弾いたものを使っていますね。

—素人目線だと9ヶ月であれほど上達するっていうのはただただすごいと感動します。

すごいですね。私も素人なので、どれだけ努力したかって測れないところではあるのですが。おそらくその大変さを理解できるのはおばあちゃん役の西川さんしかいなかったでしょうし、駒井さんにとって西川さんの存在はとても心強かったと思います。

—本作では青森を表すものとして津軽弁のみならず、青森の歴史的な側面に触れるシーンもありました。

いと がクラスメイトの早苗と近づく、きっかけになる出来事が必要で、それを色々考えていたんです。それまでの物語の流れとは関係ない“何か”であって、 いと がそれまでにない衝撃を受けるものと考えたときに、青森空襲のことを取り入れられるんじゃないかと思いました。戦時中に青森に空襲があったことを、地元の人でさえ今は知らないことも多く、そういった青森の歴史がこのシーンに合致するものだと感じました。

—近年ではバイプレイヤーとして多くの作品でご活躍され、本作にも出演している宇野祥平さんですが、監督の作品に多く出演されているものの、青森出身の方ではないんですね。

大阪出身ですね。縁もゆかりもないです(笑)。

2020年公開の映画『罪の声』の演技で多くの助演男優賞を獲得した宇野祥平

—津軽弁はかなりご苦労されたのでは?

やはり練習してもらいました。音程の上がり下がりが一番難しいので、目に見えるように音符で津軽弁を書き起こして、テープと一緒にお渡ししました。本人はアドリブができないので、それがつらいって言っていましたね。

–監督は定期的に青森を舞台にした作品を撮られていますが、撮るたびにご自身の知らなかった青森の一面が見えることはありますか?

青森のことを知らずに東京に出てきてしまったので、初めて知ることばかりです。岩木山も初めて登りましたし、板柳という街にも初めて訪れました。映画を撮りながら青森のことを知っていくという感覚が強いですね。時間をかけながらまた色んな映画がつくれたら面白いだろうと思っています。

—本作はコロナ禍で撮影の進行も大変だったと思います。撮影期間はどのくらいだったのですか?

19日ぐらいですね。青森で一気に撮りました。衣装合わせなどこちらでできることはある程度済ませて、みんなでPCR検査を受けて、陰性の結果を確認して青森に行きました。

いと早苗三味線『いとみち』
いとの同級生早苗を演じたジョナゴールド(りんご娘)

–たしか去年、最初の緊急事態宣言を受けて撮影が延期になったんですよね?

はい。本当は5月にクランクイン予定だったんですけど、自粛期間中でしたので、9月撮影を狙って少し待つことになりました。結果的には4ヶ月ぐらい遅れてクランクインできたんで良かったんです。

—最初の緊急事態宣言は今とも感覚的に違い、どのような状況になるか見えづらい部分もある中で、作品がどうなるかという不安は強いものがあったのではないでしょうか?

それまでずっと準備をしてきて、役者さんもほぼ決まっていて、駒井さんは成長していくと高校一年生に見えなくなってしまうだろうし、どうしようかなと思うことはありましたが…なるようにしかならないので、あまり悲観せずに、そのときが来たら動き出せるように準備だけはしておくという思いでしたね。お金の工面は大変ですけど。

—お金の面ではクラウドファンディングという新しいサポートのかたちも取り入れましたね。

ありがたいことに、みなさんからご協力いただいて。ありがとうございます。

予算がなくなってしまったという情けない話でもあるんですが、映画がつくられているっていうことを皆さんに知っていただくこと、何らかのかたちでこの映画に参加してくれたら嬉しいなという思いで、ご協力をお願いしました。

–皆さんからのサポートを頂きながら、コロナを乗り越えてつくられた作品ですね。1人でも多くの人に届くことを願っています。本日はありがとうございました。

ありがとうございました。

(文・インタビュー:オガサワラ ユウスケ)

いとみちPoster
映画『いとみち』

出演:駒井蓮 豊川悦司
黒川芽以 横田真悠 中島歩 古坂大魔王 ジョナゴールド(りんご娘)宇野祥平 西川洋子 

監督・脚本:横浜聡子
原作:越谷オサム『いとみち』(新潮文庫刊)
上映時間:116分
ⓒ 2011 越谷オサム/新潮社 ⓒ2021『いとみち』製作委員会

6月18日(金)青森先行上映&6月25日(金)全国公開

■予告編