Jun 25, 2021 interview

映画『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』キャラクターデザインから読み解くCGアニメーションと人間の融合【クリエイターインタビュー】

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映画『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』キャラクターデザインから読み解くCGアニメーションと人間の融合【クリエイターインタビュー】

CGアニメーションという表現がもはやアニメーションの認知領域を超えて、スクリーン上で実写と違和なく融合する時代になった。今週 6月25日(金)に公開される『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』は紛れもなくその映像進化を体現する作品だ。

今回、『ピーターラビット』、および最新作『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』でキャラクターデザインを担当した 阿波パトリック徹 氏にお話を伺うことができた。完成品を当たり前に受け入れている僕らは、もちろんその製作工程など気にすることもないし、その必要性も感じない。案の定、今回のインタビューではその瞬間に置かれるまで聞くべき質問の手札が片手くらいしかなかった。その手探りな空気感は冒頭から伝わるものがあるだろう。そこから段々と解像度が高まり、インタビュアーの好奇心が踊り出す様もテキストに見えるはず。

“偶像”に生命を宿し、”実体”のある人間と共演させる。ノンフィルターで味わっていたスクリーン上のハーモニーの裏側を覗き、好奇心でフィルタリングしたひと味違う『ピーターラビット』を文面で感じてもらえれば嬉しい。


映画『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』キャラクターデザインから読み解くCGアニメーションと人間の融合【クリエイターインタビュー】

■ 阿波パトリック徹(Tohru Patrick Awa) プロフィール

キャラクターデザイナー、コンセプトアーティストとして多くの作品で活躍。
日本で育ち、2001年頃に渡米 – 2017年までにカリフォルニアで多くのスタジオに携わる。関わってきた作品は、『LEGO(R)ムービー2』『アメイジング・スパイダーマン』『ソニック・ザ・ムービー』『トロン: ライジング』『ピーターラビット』シリーズなど。現在は日本のCG 制作会社ポリゴンピクチャーズでネットフリックス US のアニメシリーズ『Mech Cadets』の supervising director を担当。
※『ピーターラビット』シリーズで担当した業務について(キャラデザイン)
・『ピーターラビット』 ピーターラビット、ペンジャミン、三つ子の妹たち、ネズミ、狐
・『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』バーナバス、サムエル、子猫のトムとミトン


■ インタビュー本文

—今日はお時間ありがとうございます。さっそくですが、阿波さんのお仕事の内容を読み解きながら色々映画『ピーターラビット』シリーズについて伺いたいと思っています。まずは、阿波さんのようなお仕事は業界的にはどのような呼ばれ方をするのでしょう?

大きくはコンセプトアーティストと言います。その中でも人によって得意とするものが違ったりするんですが、僕は主にキャラクターデザインをすることが多いですね。

—過去には『LEGO(R)ムービー2』、『アメイジング・スパイダーマン』、『ソニック・ザ・ムービー』など多数の素晴らしい作品に携わっていますが、どのようなきっかけで作品への参加が決まるのでしょう?

ケース・バイ・ケースなのですが、やっぱり今までに築き上げた関係性でお仕事を頂くことが多いですね。信頼関係のあるスタジオや監督、またはプロデューサーから連絡をいただいて打診されることが多いです。

—キャラクターデザインという仕事に興味を持っている方もいると思います。阿波さんは、どのように今のお仕事を生業にするに至ったのでしょう?

小さい頃から漠然と絵を書くことは好きで、それができる仕事には興味がありました。でも、今と違って家でアニメーションが作れる時代でもなかったので、高校生になってもどうすればよいのか正直分からず。大学では最初インダストリアルデザインという分野を専攻して、そこで車のデザインなどを勉強していました。そんなときに、大学でCGを教えてくれる授業があって、それは僕の専攻とはあまり関係なかったんですが、興味があって受けたらすごく面白かったんです。その授業の講師が日本のCGプロダクション、ポリゴン・ピクチュアズの創設者の河原敏文さんだったんです。1993、94年頃なので、僕もCGなんて全然分からない状態で、世の中的にもコンピューターでアニメーションをつくるなんて想像もしていない時代でした。そんな中、河原さんはそれを実現しようとすでに会社をつくっていて、その会社に遊びに行かせてもらって入り浸っているうちに、バイトをさせて頂くようになりました。当時は十数人くらいの小さい会社だったので、幅広く仕事をしながら少しずつ自分の居場所を見つけていったというのが最初でしたね。

—その後にアメリカに渡って長いこと向こうでお仕事されていたんですね。

1997年にソニー・コンピュータエンタテインメント、ナムコ、ポリゴン・ピクチュアズの3社の共同出資で日本初のフルCG映画をつくるという合弁会社が立ち上がったんです。ドリーム・ピクチュアズ・スタジオという会社で、アメリカにもスタジオをつくって、そこにルーキーだった僕も行かせてもらいました。そこには、今だと考えられないくらい素晴らしい人たちが集まっていて、ポートフォリオを見せてもらうとキラ星のような作品ばかりですごく刺激を受けました。楽しく2年間過ごすうちに結局プロジェクト自体が頓挫し てしまい、一度日本に帰国したんですけど、その経験が忘れられなくてフリーになってあらためてアメリカに行きました。それからずっと、2017年くらいまで向こうにいました。

映画『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』キャラクターデザインから読み解くCGアニメーションと人間の融合【クリエイターインタビュー】
『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』(6/25公開)

—2017年というと映画『ピーターラビット』1作目の公開前年にあたりますね。

1作目を作り始めたのが2015年。スクリプトが送られてきて、やるって返事したのが、多分その頃ですね。

—キャラクターをデザインする際、最初は手描きで書き起こすことが多いのですか?映画『ピーターラビット』のキャラクターたちをつくりあげる最初の工程が知りたいです。

最近は直接コンピューター上で絵を書くことが多いのですが、映画『ピーターラビット』の場合は、原作が持つあたたかくて少しトラディショナルな感じを大事にしたくて鉛筆でデッサンをしていきました。ウィル・グラック監督から、ピーターは「ただかわいいだけじゃなく、跳ねっ返りのある、少しわんぱくで辛辣なジョークを言うキャラクター」と説明を受けていたので、それをイメージしつつ都度アートディレクターに確認しながら仕上げていきましたね。ただ鉛筆画だと最終的な見た目がどうなるのかという情報が足りないので、その手描きの絵をスキャンして、フォトショップで細かい身体の毛などを加えてリアルな、今のかたちにかなり近いものをコンセプトデザインの段階で示すことができました。この段階で監督とアートディレクターのOKがでて、そこからCGチームが3Dのモデルとして実際に劇中に登場するピーターを作成していきました。

—そこから表情などはどのようにつくりあげていくのでしょう。

本作のアニメーションは、アニマル・ロジックという素晴らしいプロダクションスタジオが担当しているのですが、彼らと喜怒哀楽の表情など顔の動きを細かく調整していきます。漫画的にならないように、また人間っぽくなりすぎず、でもちゃんと存在する生き物のようにと、修正を繰り返しながらつくりあげていきます。

人間って、顔のその表情をつくる表情筋とそれぞれのパーツ、まゆげや頬、口の形とかも様々な動作を複合的に読み取って、相手の感情を理解すると思うんです。けど、昆虫や動物は基本無表情で、そもそも表情が伝わるようにつくられていないわけですから、そこを足していかないと行けないんです。でも足しすぎると漫画的で、写実的なデザインからは離れたものになって原型が分からなくなってしいます。そのさじ加減に気をつけながら、立ち上がって喋ったりすることのないキャラクターが、あたかも実在するようにつくりあげていきます。

映画『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』キャラクターデザインから読み解くCGアニメーションと人間の融合【クリエイターインタビュー】
『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』(6/25公開)

—リアルとファンタジーの絶妙な塩梅を見つける作業でもあるわけですね。

さらには、映画『ピーターラビット』の場合は、最終的に人間の役者と一緒に演技をすることになるじゃないですか。実際のウサギには表情がないわけで、それが実在の人間と遜色ない芝居を一緒にするわけです。人間と絡んでも気持ち悪くない、可愛いけど存在を信じられる、その辺の微妙なバランスも考慮しなくてはいけないので、これは難しくもあり面白さでもありました。

—阿波さんが過去に携わったソニックやスパイダーマンなどは作中でも唯一無二の際立った存在ですが、映画『ピーターラビット』の場合は、他にも多くのウサギがいる中でキャラクターの差別化をしないといけなかったと思うんです。この点で難しさはありましたか?

アニマル・ロジックという会社は、歴史的には、動物をCGで背景に付け足したり、そういうエフェクトが得意な会社だったんです。非常に写実的な表現を得意としている会社なんです。過去に『ガフールの伝説』というフクロウが山ほど出てくる映画で一緒に仕事をしたとき、彼らはやはり写実的な表現が極めて素晴らしいので、逆にキャラクターの独自性を持たせにくくて苦しむことがありました。そのときは、僕と彼らでお互いの意見を出し合って、試行錯誤しながらキャラクターの違いをつくっていました。映画『ピーターラビット』でも当時の経験を活かしながら、同じように意見を出し合って、写実的すぎず漫画的すぎず、原作らしさは残しつつ、ということを気にしてキャラクターを描いていましたね。

—実際のウサギを観察されたりもしたんですか。

最初は大量の参考資料が送られてきました。監督からはピーターや3姉妹のフロプシー、モプシー、カトンテール、それぞれに色の指定があったりしたんです。でも、送られてきた資料はリアルなウサギで、草原でうずくまっている写真だから、色も顔もあまり違いが分からないんです。現実の世界では、一般的には人間にとって”動物の見た目の違い”って差が微妙ですよね。オスメスの区別もわからないし。なので、まずは本質的なベースラインに立ち返って、ピーターであれば跳ねっ返りのわんぱくな感じが伝わるように、3姉妹だったらイタズラ好きもいれば大人しい子もいる。その中で怒った顔もするし、笑った顔もする。そこでキャラクターの独自性、認識センサーを出していけるよう試行錯誤していましたね。

映画『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』キャラクターデザインから読み解くCGアニメーションと人間の融合【クリエイターインタビュー】
『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』の新キャラクター:バーナバス

—今回『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』が公開されるわけですが、2作目の見どころとしてキャラクターをデザインした阿波さんが見てほしいところはどこでしょう?

1作目はなにもない状態からつくりあげる難しさがありましたが、結果みなさんに好意的に受け入れられて、2作目も携わることができました。本作ではピーターの師匠的なバーナバスというキャラクターが登場します。2作目ということで全体のトーンはわかっているので、その上でより掘り下げた面白いキャラクターとして見えるように意識しました。最初はキューバ産の人参を、葉巻のように口に咥えているというアイディアもあったんですが、やはりそこはNGでした(笑)。そういったアイディアを重ねて、現在のバーナバスになっているのでぜひ劇場に会いにきてあげてください。

『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』
6月25日(金)より全国ロードショー


■ 予告編

『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』
映画『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』

原題:Peter Rabbit 2: The Runaway
監督:ウィル・グラック(『ピーターラビット』『ANNIE/アニー』) 
声の出演:ジェームズ・コーデン(『オーシャンズ8』CBSトーク番組「レイト×2ショー with ジェームズ・コーデン」司会)/マーゴット・ロビー(『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』)/エリザベス・デビッキ(『TENET テネット』)
出演:ドーナル・グリーソン(『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』)/ローズ・バーン(『ANNIE/アニー』)  
日本語吹替版:千葉雄大(ピーター)/哀川翔(バーナバス)/浅沼晋太郎(マグレガー)/安元洋貴(ナイジェル)/鈴木達央(まちねずみジョニー)/森久保祥太郎(こねこのトム)/木村昴(大道芸リス)/千葉繁(JWルースター2世)

6月25日(金)全国ロードショー