Jul 28, 2017 interview

第5回:予告編とは、いかにしてその作品の良さを素直に伝えるか、に尽きる。

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小松

『この世界の片隅に』の大ヒットです。

あれは、テレビなど各種メディアで紹介してもらえなくて、宣伝の人は苦労したようですが、結果的に、片淵須直監督の想いがお客さんに届いて、ヒットにつながったんだと思うんです。

予告編も、とても素直な作り方でした。

「僕に作らせてくれたら、もっと目立つ予告編作れたのに」なんて思ったりしたものです。

でも、あの予告編の素直さが良いんだと後でわかった。

ふだん映画館に行かないような人たちがこの映画を見て、すごく良かったと話すのをたくさん聞いて、「予告編というのは、映画の良さをいかに素直に伝えるかということが大事なんだな」と改めて思ったんです。

「僕が、この予告編で当ててやるんだ」みたいな気持ちで作った予告編は、むしろ邪魔になるんじゃないかなと。

池ノ辺

なるほど。

小松

もちろん、「俺が当ててやるんだ! 」という意気込みや、奇をてらった演出が必要な映画もあるけど。

でも、やっぱり、「予告編とは、いかにしてその作品の良さを素直に伝えるか」に尽きると思った。

長年試行錯誤を繰り返して、新しいものや珍奇なものもたくさん作ってきて、「映画より予告編の方が面白かった」とか言われて喜んだりした時期もあったけど、でも、予告編というものは、映画を見るきっかけになってくれれば良いし、それ以上出しゃばってはいけない。

映画を見たら予告編のことなんか忘れてしまうくらいが良いじゃないかと思うんです。

本当は、そういう予告編を作るのが一番難しいと思うんですが。

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池ノ辺

40年、続けてきて、改めて見えてきた風景ですね。後輩たちに伝えておきます。

小松さん、これから少しゆっくり休んで、何をやるんですか?

小松

映画も見たいし、今はちょっとダイエットしています。

池ノ辺

来年あたりにまた会社に戻ってきてもらって、顧問として若い人への語り部になって欲しいなあ。

小松

僕が話すと昔の話ばかりになっちゃうからなあ。

池ノ辺

でも、今日の話を聞くと、要所要所で、「予告編の何が大事か」という話がすごくやっぱり、役に立ちます。

小松

それは池ノ辺さんと僕の年齢や歩みが近いからで、今の若い人はまた違う事を考えているだろうしね。

とりあえず僕としては40年間予告編を作る仕事をやってきたので、一回、名もなき一観客に戻りたいなと。

今まで、作り手側の立場から映画を見てきて、とうしても興行収入とかのことを考えると、お客さんをひとりひとりの顔じゃなく、塊で見ちゃうようなところがあったから、まずはそういう目線を捨てて、まっさらに映画を見たい。

『この世界の片隅に』の話に戻るけど、それまで映画もアニメもあまり見ることがなかった80歳くらいのおばあさんとかが劇場に行ったりしていたじゃないですか。

そういう人がちゃんと作り手の思いを受け止めて見にいっている。そういう映画の底力というか、単純に映画のすごさを僕も一観客として、感じたいです。

池ノ辺

じゃあ、そういう観客側になった時に、どんな映画が面白かったか、今度レポートで出してください。

小松

わあ、定年退職しても、池ノ辺さん、厳しいね(笑)。

まあ、ぼちぼち、よろしくお願いいたします。

(文:金原由佳 / 写真:岡本英理)


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映画『ダンケルク』

「ダークナイト」「インセプション」 世界が嫉妬する才能、Cノーラン監督が描く実話 史上最大の救出作戦。 [究極の臨場感] [究極のタイム・サスペンス] [究極の映像体験] 陸海空3つの視点から迫る 息もつかさない99分間! Hスタイルズ、Mライランス、Tハーディほか出演。

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配給:ワーナー・ブラザース映画

9月9日(土)丸の内ピカデリー 新宿ピカデリー他 全国ロードショー

公式サイト http://dunkirk.jp

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PROFILE

小松敏和(こまつ・としかず)

株式会社バカ・ザ・バッカ 創立メンバー

1952年生まれ。1976年、株式会社武市プロダクション入社。予告編デビュー作は「ジャンクマン」(82年)。1987年、株式会社バカ・ザ・バッカ設立に参加。「南極物語」(83年)で予告編コンクール予告編大賞。「死霊のはらわた」(85年)、「東京国際ファンタスティック映画祭」(85年〜05年)、「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」(89年)で予告編コンクール予告編大賞。「ムトゥ/踊るマハラジャ」(98年)、「アメリ」(01年)、「おくりびと」(08年)、「冷たい熱帯魚」(11年)など、40年間を通して、約1500本の予告編を制作。2017年6月、株式会社バカ・ザ・バッカを定年退職。

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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