Feb 13, 2017 interview

人間のダークサイドを描くことほど楽しいものはない!? 作家・貫井徳郎と石川監督が生み出した愚行エンターテインメント!

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『愚行録』の次に映画化される貫井作品は…?

 

──otoCotoではクリエイターのみなさんに読書遍歴や愛読書についてお聞きしています。『愚行録』をより楽しむためにお勧めの本はありますか?

貫井 何だろうなぁ。僕は基本的に女性作家が書く小説が好きなんですね。どうしても男性作家は女性に対して幻想を抱いているので、割と画一化された女性キャラクターになってしまいがちなんです。でも、女性作家の小説には本来の女性の姿が赤裸々に描かれている。『愚行録』が書けたのも、そういった女性作家の小説を読んでいたからだと思います。具体的には山本文緒さんの『プラナリア』、『愚行録』の後に出た作品ですが角田光代さんの『紙の月』、それに林真理子さんの小説も好きですね。そういった女性作家の小説を読んできた読書体験が『愚行録』に繋がっていると思います。僕自身の体験はほんの少しで、読書体験から得たものが断然大きいですね。

石川 僕は東北大学の物理学科に進んだほどの理系人間なもので、SF小説を読むことが多かったですね。その中でも好きなのは、テッド・チャンの短編小説『あなたの人生の物語』。予想外の展開が待っていて、すごく面白く読むことができました。僕自身の手で映画化したいなとずっと思っていたんですが、最近ハリウッドで『メッセージ』というタイトルで映画化されています。自分が撮れなくて悔しいんですが、まぁ僕が好きなドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が撮っているので仕方ないかなと(笑)。

──石川監督、もし貫井さんの小説を次に映画にするとしたら…?

貫井 それは酷な質問でしょう(笑)。

石川 いや、でも無理を承知で答えるのなら、貫井さんのデビュー作である『慟哭』は映画化に挑戦してみたいです。『慟哭』もすごく面白い。

貫井 それこそ、『慟哭』を映画化するなら思いっきり変えないと成立しませんね。

石川 そうですね。でも、『慟哭』はあのハードな世界観がすごくいい。実際に貫井さんの作品を映画化するのは構成的に難しいんですが、文学がここまでやっているのに、お前には何ができるんだと問われている気がしてくるんです。いつかチャンスがあれば、貫井さんの他の小説も映像化してみたいです。

貫井 ありがたいなぁ。そのときは、ぜひよろしくお願いします。

 

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取材・文/長野辰次
撮影/名児耶洋

 

 

プロフィール

 

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貫井徳郎(ぬくい・とくろう)

1968年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、不動産会社に就職。1993年に『慟哭』で作家デビュー。2006年に発表した『愚行録』は直木賞候補に選ばれ、2010年に『乱反射』で日本推理作家協会賞、『後悔と真実の色』で山本周五郎賞を受賞。その他にも『プリズム』『悪党たちは千里を走る』『新月譚』『私に似た人』など数多くの作品を発表している。

 

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石川慶(いしかわ・けい)

1977年愛知県出身。東北大学物理学科卒業後、ポーランド国立映画大学で演出を学ぶ。帰国後は短編映画の制作を中心に、ドキュメンタリー番組、CM、舞台演出などを手掛けている。長編デビュー作『愚行録』は、第73回ベネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門に選出された。

 

作品情報

 

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『愚行録』

貫井徳郎作品の初映画化は、映像化が困難と言われた直木賞候補作『愚行録』。果敢にも映画化に挑んだのは、ポーランド国立映画大学を卒業した新鋭・石川慶監督。大学時代の同期生だったポーランド出身の撮影監督ピオトル・ニエミイスキを日本に呼び、原作で描かれた登場キャラクターたちの愚かなエピソードの数々を端正なカメラワークと乾いた映像美によって切り取ってみせている。兄妹役を演じた妻夫木聡と満島ひかりの演技巧者ぶりに加え、惨殺されるエリート夫婦を演じた小出恵介、松本若菜ら助演陣の好演もドラマを大いに盛り上げている。彼らの吐く思わせぶりな台詞と、それとは裏腹な本音を感じさせる表情や仕草から目が離せない。

原作:貫井徳郎「愚行録」東京創元社
監督/編集:石川慶
出演:妻夫木聡、満島ひかり、小出恵介、臼田あさ美、市川由衣、松本若菜、中村倫也、眞島秀和、濱田マリ、平田満
脚本:向井康介
音楽:大間々 昴
配給:ワーナー・ブラザーズ映画/オフィス北野 

2017年2月18日(土)より全国ロードショー
(c)2017「愚行録」製作委員会

公式サイト:gukoroku.jp

 

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原作本

 

『愚行録』貫井徳郎/東京創元社

有名大学を卒業したエリート夫婦が自宅で惨殺される事件が起きるが、事件発生から1年を経ても犯人は見つからない。ひとりの記者が被害者夫婦の知り合いを取材して回ると、被害者夫婦の意外な素顔が浮かび上がる―。原作では慶応大学の内部生と外部生との見えないヒエラルヒーや、早稲田大学で一流企業に就職するために懸命にコネづくりに励むなどのエピソードが、大学名や企業名などを実名で書かれており、否応なく読み手の好奇心を惹き付けてしまう。原作を読むことで、エリートたちの、そしてエリートに憧れる者たちの愚行ぶりをよりじっくりと味わうことができる。

 

関連書籍

 

『慟哭』貫井徳郎/創元推理文庫

貫井徳郎の作家デビュー作。新興宗教に救いを求める「胸に穴が開いた」男の哀しき願いと多発する幼女誘拐事件の犯人を追う捜査一課の緊迫した内部状況が交互に描かれ、予期せぬクライマックスを呼び込む。警察内部にはキャリアとノンキャリアの歴然とした壁があり、新興宗教はお布施の金額によって組織内での格付けが決まるなど、『愚行録』と同じように日本社会にすでにある格差ぶりが克明に描かれており、思わず絶句してしまうどんでん返しも含めて、まさに貫井ワールドの原点と言える処女作だ。

 

-貫井徳郎オススメ本

『デビルマン』永井豪/ダイナミックプロ/講談社

人気漫画家・永井豪による壮大なスケールのSF漫画。おとなしい性格の少年・不動明は悪魔(デーモン族)の力と人間の心を持ったデビルマンとなり、地上への復活を目論む先住民デーモン族と壮絶な戦いを繰り広げる。シレーヌやジンメンなどデーモン族たちの斬新なビジュアルに加え、暴徒化した人間たちによって不動明の面倒を看ていた善良な牧村家の人々が魔女狩りに遭うシーンや不動明の親友である飛鳥了の正体に多くの読者は衝撃を受けた。

 

-石川監督オススメ本

『あなたの人生の物語』テッド・チャン/ハヤカワ文庫

世界各地に謎の宇宙船が現われ、言語学者のルイーズ博士たちは宇宙人たちとコンタクトするために彼らの言語を理解しようとするが、そのことから思いがけない事態に巻き込まれていく。ネビュラ賞を受賞した表題作のほか、SF作家テッド・チャンのデビュー作『バビロンの塔』、ヒューゴー賞受賞作『地獄とは神の不在なり』などの傑作短編を収録。『ブレードナンナー2049』を手掛けるドゥニ・ヴィルヌーヴ監督がエイミー・アダムス主演作『メッセージ』として2016年に映画化しており、日本では5月に公開される。宇宙人の言語をどのように映像化しているのか楽しみ。