Jul 05, 2022 column

映画『哭悲/THE SADNESS』からみるホラー映画の過去と現在

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ホラー映画を振り返る

『サイコ』に始まる60年代は、『反撥』(65)などのサスペンス・ミステリーが主流で、70年代は過渡期で種類に富んでいる。この夏、8月12日から開催される『ホラー秘宝まつり2022』で作品が上映される、イタリアの巨匠、ルチオ・フルチ監督の『ザンゲリア2』(79)やダリオ・アルジェント監督の『サスペリア』(77)もこの時期だ。不死身の殺人鬼が蹂躙する80年代は、スプラッター描写が多くの人々の話題をさらった。

そして90年代に、ロバート・K・レスラー著「FBI心理捜査官」によりサイコブームが訪れる。”本当に怖いのは人間なのだ”といった『羊たちの沈黙』(91)や『セブン』(95)などの謎解き要素が含まれたミステリーサイコが流行する。

これらの映画は、ホラーではなく「スリラー」と呼ばれ、90年代以降、キャッチコピーに「ホラー」という言葉が鳴りを潜めていく。ホラー映画は低予算で作られたB級感があるとして、「ホラー」と謳うと売れないという謎のジンクスが業界に流れ始めたのだ。これにより、日本の幽霊とゾンビもの以外は全部「スリラー」、「サスペンス」というジャンル分けになった。つまり、大人の都合で言い換えられてしまったのだ。

そんなか、ウェス・クレイヴン監督は『スクリーム』(97)で、70年代スラッシャーを復活させ、”セックスやドラッグに溺れるやつは死ぬ”などのお約束を散りばめ、コミカルなB級テイストのホラー映画を仕上げた。シリアスを控え、謎解きスリラーの時代に一区切りつけた。

その後『バトルロワイヤル』(00)、『ソウ』(04)などのデスゲームや、ハンディカメラによるフィキュメンタリー、POVの時代も訪れ『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(99)、スパーナチュラル・ホラー『パラノーマル・アクティビティ』(07)など、設定・シチュエーションを工夫した作品が流行する。

時同じくして、ハリウッド・リメイクされた『ザ・リング』(02)がヒット。続編をリメイク元である『リング』(98)でメガホンをとった中田秀夫監督が担当することになる。日本の幽霊映画は怖いと評判を呼び、続いて清水崇監督『呪怨』シリーズもハリウッド進出し、世界的にJホラーブームが訪れた。

昔話のような田舎から都市部に舞台が移り、ビデオの普及により多様化し、マーケティングにより名前を変え、設定を変えてきたホラー映画。しばしばジャンル映画と呼ばれるのは、このためだ。ひと思いにくくれないのだ。