Apr 26, 2024 column

第46回:モンスター・ヴァース10周年目で大輪の花 『ゴジラxコング 新たなる帝国』

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第96回アカデミー賞視覚効果賞を受賞した『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督がゴジラの世界的人気を証明した今年3月。その熱が冷めやらないなか、娯楽大作『ゴジラxコング 新たなる帝国』が全米3861館で公開され、米オープニング興収で8千万ドルを記録。今月22日の段階で全世界累計4億8744ドル(日本円で約622億円)。「モンスター・ヴァース」シリーズが10周年目にして、大輪の花を咲かせている。

先週、全米劇場所有者協会(NATO) 主催のシネマコンが米ラスベガスで開催され、大手スタジオの今年のラインナップが劇場関係者や記者に披露された中、2日目は、東宝、松岡宏泰社長がスペシャル・ウェルカムの挨拶。ソニーが2020年に買収したアニメ専門チャンネル、クランチロールの代表ミッチェル・バーガーが今年のラインナップを発表。日本製コンテンツ、とくにアニメ映画が大手スタジオの映画と並んでプレゼンされるのは今回が初めてで、ゴジラに続く日本製IPの映画化に期待がかかる2024年。NATOの代表マイケル・オレアリーは、「興業界の成功はブロックバスター映画にだけ頼るのでなく、多様な観客にアピールできるヴァラエティにとんだ作品を劇場提供することが不可欠だ」とスピーチした。

復習するとより楽しいゴジラとコングの深い関係!

今月中旬の「モンスターヴァース」全作品興業収入を比較すると、1位は『GODZILLA ゴジラ』(2014)。1998年のローランド・エメリッヒ監督版以来、米製ゴジラ映画に半信半疑だった世界中の「ゴジラ」ファンに圧倒的な存在感を持って復活させたのがこの映画。英国出身のギャレス・エドワーズ監督は、1954年の第1作『ゴジラ』にオマージュをささげ、娯楽作ながら、第2次世界大戦での広島原爆投下の話などが俳優、渡辺謙が扮する芹沢博士のセリフにも含まれ、核開発に関する重要な課題とゴジラ誕生の秘話が分かる内容となっている。さらには、ゴジラファンが最も懸念したビジュアルに配慮が配られ、ゴジラが登場するまでのドラマチックな演出など、アレクサンドル・デスプラのテーマ音楽とともに、秀逸な演出で観客を魅了した。日本以外のロケ地で撮影された和風建築物など、米製映画が日本を描くときに多々ある違和感は残っていたが、確実に米ゴジラ映画の完成度を上げ、10年経った今でも、モンスターヴァースのトップ興収作品として君臨している。

この「モンスターヴァース」シリーズとは、ハリウッドの大手スタジオのトレンドに乗ったIP戦略の一つである。例えばディズニーのMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)、米ワーナー・ブラザースのDCジャスティス・リーグなどのように、アイコニックなキャラクターを、境界線を越えて巡り合わせるシェアード・ユニバースという世界観をそれぞれ構築することで、おなじみのキャラを一気に戦わせることを可能にした。

「モンスター・ヴァース」は米ワーナー、レジェンダリー、そして東宝が力を合わせ、新たなフランチャイズ映画シリーズとして開発し、ギャレス・エドワーズ監督作品のあと、『キングコング:髑髏島の巨神』(2017)、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019)『ゴジラvsコング』(2021)、そして今作が5作目。ボックスオフィスMOJOのモンスター・ヴァース全体の世界興収を比較した結果によると、今作『ゴジラxコング 新たなる帝国』は、約1ヶ月弱の興業で、先週モンスター・ヴァース全5作品中2位だった『キングコング:髑髏島の巨神』の世界興収を軽々と超えて最速で現在、2位に登りつめた作品。

大ヒット映画『キングコング:髑髏島の巨神』の監督を手がけたのは、米デトロイト出身のアクション監督ジョーダン・ボート=ロバーツ。監督は現在、日本のトップゲームクリエイター小島秀夫の「メタルギア」シリーズの映画化『Metal Gear Solid』の公開準備中で、そのほか1979年のロボットアニメ「機動戦士ガンダム」の映画化にもタックルしているなど、日本発信コンテンツとの関係も深い。

『キングコング:髑髏島の巨神』は、いままでの米キングコング映画のルーツをたどりながらも、舞台を1973年に設定。ベトナム戦争後、特務研究機関モナークが未知生命体の存在を確認するために、太平洋に突如あらわれた孤島スカル・アイランド(髑髏島)へ降り立ち、島の守護神コングを怒らせることになるというスリリングなオープニング。コングを取り巻く俳優はサミュエル・L・ジャクソン、ブリー・ラーソン、ジョン・グッドマンやジョン・C・ライリーなど日本でも馴染みのある顔ぶれだった。

『ゴジラxコング 新たなる帝国』の舞台となるホロアースについて最初に触れたのがこの第2作目。キングコングの住むスカルアイランドという舞台の世界観から発展させ、大昔、地中の真ん中に空洞があったのではという地球空洞説を反映したホロアースという舞台は、気温はトロピカルで、原始の恐竜時代を思い出させるような怪獣たちの住むパラダイス。映画はまるで、3Dメガネをかけているように、地球が反転しているようなビジュアルで、ホロアースを提示し、古代怪獣たちが走り回る重力反転空間が繰り広げられる。自由自在に走り回る原始怪獣の中で登場するコングは最新のVFXで毛並みも美しく、まるでアフリカのサファリを訪れるような原始の『ジュラシック・パーク』や異世界の『アバター』で自然観察するようなビジュアルが魅力である。