Jun 15, 2017 interview

「こども」って怖い存在だと思う。だから無意識に何度も使ってしまうのかもしれない。

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こども」が持っている恐ろしさ

 

──大人を殺す恐ろしい「こども」も出てきます。

「呪怨」の頃というか、前々から「大人」と「子供」の間に何があるのかっていうのが、僕の中のテーマにあるらしくて、なにかと子供を出したくなるんですよね。こういうのって、自分では気付かないもので、何度も一緒にやったことのある助監督から「監督、また子供ですか」って言われてハっとしたっていう(笑)。  子供って残酷な所もあって、でも完全な悪ではなく、人間誰しもが持っているような部分だったりするじゃないですか。そのミステリアスな感じというか、不可思議な存在感を、現代に持ち込みたいというのがありましたね。

 

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──社会的な問題も入ってますよね。

実際、大人は事件になってから結果論で語るばかりですが、お母さんがベランダに自分の娘を放り出しちゃうとか、似たような事を、どこの親も日常的にやってしまうことで、世間体ばかり気にして、肝心の子供の気持ちや心はおざなり……。そういう問題に、とんでもない真逆の、わけのわからない存在が現れて、そこをどう結んで行くかということですよね。この映画も後半はファンタジー色が強くなるというか、内面に抱えているトラウマの世界が具現化していくような、夢か現実かわからない部分が出てくるんですけど、それでも現実にもありそうな共感や匂いがどこかにないと表現が強くならない。こういうジャンルだからこそ、薄っすら共感できるリアリティがないといけないので。

 

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──今作ではどのあたりが清水監督にとってチャレンジだと思われますか?

「こども」が怖い存在として出てくるという所ですよね。こどもだから純真とか、大人は汚いとか、そうやって単純に分けられない境目をどうやってバランスをとっていくか。どのキャラクターにも多面性を持たせているので、単純に善悪がわけられない怖さを意識しました。こどもが大人たちを襲うシーンも、ブラジリィー・アン・山田さんのプロットではもっと猟奇的で、具体的な描写だったんですけど、僕は〝痛さ〟や〝苦しさ〟の表現が苦手なので(笑)、もっと謎めいた描写にしていきました。でも、そうやって試行錯誤してるとプロデューサーから「監督、怖いシーンは?」って、具体的な描写を求められるんですよ。それでいま話したようなことを説明するんですけど、「わかるんですけど、どこから怖くなるんですか」って(笑)。そのバランスを取るのもチャレンジでしたね。

──このインタビューでは本にまつわる話をお聞きしてるんですが、清水監督は電子書籍はお使いになりますか?

まだ電子書籍にはそんなに手を出してないんです。本当にアナログ人間なんですよ。3D映画とか作ってるんですけど、まだ本は紙が多いですね。

──読まれる本は、映画作りと関係するものが多いですか?

いろいろですけど、話題の新刊とかは、映画業界のプロデューサーたちがみんなで競争するかのように読んでいて、映画化できないかどうかを探ってたりするんで、僕はあえて避けたりします。個人的には、松本清張さんの小説とか、ベケットの戯曲とか、絵本とか童話とか、人間の本質や内面の心理的世界を扱った題材のほうが興味ありますね。

 

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──やはり、ジャンル的にはミステリーとか推理物とか、人が死ぬものが多いでしょうか(笑)?

読みますけど、そればっかりじゃないですよ(笑)。子供の頃から絵本が好きなので、いまでもよく手に取りますね。でもやっぱりちょっと怖いとか、不気味な雰囲気の絵本が好きかもしれないです。昔もいまも好きなのは『おしいれのぼうけん』という作品ですね。今回の『こどもつかい』もそうですし、『呪怨』にもあると思うんですけど、子供って秘密基地とか作ったり、押し入れに閉じこもって遊んだりとかするじゃないですか。その暗闇になにかがいるって感覚とかが、たぶん影響を受けているんじゃないかなって思います。日本人は特に何でもかんでも感動で片付けますが、ただ人が死んでお涙頂戴…ってのは苦手です。

 

取材・文/灸怜太(きゅう れいた)
撮影/吉井明

 

プロフィール

 

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清水崇(しみず・たかし)

1972年群馬県出身。シャイカー所属。大学で演劇を専攻。99年にオリジナルビデオ『呪怨』を監督。斬新な恐怖描写が話題となり、劇場版『呪怨』『呪怨2』も大ヒット。04年にはハリウッドに招かれ、サム・ライミのプロデュースにより『THE JUON/呪怨』で日本人監督の実写作品としては史上初となる全米興行成績No.1を記録。ホラーだけでなく、ファンタジー『魔女の宅急便』(14年)や揺れ動く少年の思春期を描いた『ブルーハーツが聴こえる/少年の詩』(17年)も監督。近年は日本科学未来館で上映する3Dドーム映像作品『9次元からきた男』(16年)など、メディアの幅を広げた映像作品を手がけている。

 

映画レビュー

 

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こどもが被害者となる痛ましい事件が続く現実社会を反映するように、陰鬱とした雰囲気で幕を開ける本作は、それぞれ問題とトラウマを抱えた駿也(有岡大貴)と尚美(門脇麦)が、「こどもつかい」の謎を探っていくというミステリー仕立てで展開する。そこに姿を見せる「こどもつかい」は、恐ろしさと無邪気さが共存するだけでなく、ある種のダークヒーロー的な側面もあり、この役を違和感なく演じられるのは滝沢秀明しかいないと思えるほどのハマり役だ。後半は幻想的な要素が強くなり、不気味さと切なさがめくるめくように入れ替わる清水崇流のグランギニョールが展開する。単なるJホラーとは一線を画す手触りと、滝沢秀明の確かな存在感は一見の価値があるだけでなく、もっと続きを観たくなるような妖しい魅力にあふれている。

『こどもつかい』

監督:清水崇
脚本:ブラジリィー・アン・山田 清水崇
出演:滝沢秀明 有岡大貴(Hey! Say! JUMP) 門脇麦 西田尚美
音楽:羽深由理
企画・配給:松竹
製作:「こどもつかい」製作委員会
2017年6月17日(土)より全国公開
(c)2017「こどもつかい」製作委員会
公式サイト:http://kodomo-tsukai.jp/

 

清水崇監督の思い入れのある本

 

「ハーメルンの笛吹き男」グリム兄弟(著)レナーテレッケ(著)リスベートツヴェルガー(絵)池田香代子(訳)/BL出版

ハーメルンの町にはネズミがあふれかえり、人々は困り果てていた。そこに、笛を持った男が現れ「お礼をくれるならネズミを追い出しましょう」男は笛を吹くと、ネズミはどこかに行ってしまった。しかし、町の人は男のお礼をしなかった。怒った男は笛を吹き、街中の子供をどこかへ連れて行った…。有名な童話であり、ある説では歴史的な史実ともいわれる「ハーメルンの笛吹き男」。謎に包まれた物語を印象的なイラストで絵本化。

「ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界」
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「おしいれのぼうけん」ふるた たるひ(著)たばた せいいち (著)/童心社

「さくら保育園」に通う、【あきら】と【さとし】は、ミニカーの取り合いでケンカをしてしまい、先生に罰として真っ暗な「おしいれ」に入れられてしまう。その暗闇はどこかに繋がっており、恐ろしい【ねずみばあさん】が追いかけてくる…。トラウマ必至の不気味な手触りだが、不思議な冒険と友情、そして周りのおとなたちの葛藤まで描かれ、74年の初版から子どもたちに読み継がれている傑作絵本。累計200万部を突破している。