Jan 12, 2018 column

映画『君の名は。』お正月テレビ放送に感じた、テレビの可能性とは?

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大ヒットアニメ映画の新春放送というこの目玉に合わせ、テレビ朝日ではまず元旦・2日深夜に新海誠監督による旧作中長編の放送を行った。この同監督の作品もまとめて流すペイチャンネルの特集プログラム的な部分も良かったが、何より感心したのは当日の『君の名は。』の放送枠自体を、CMまで含めて視聴者が楽しめる仕掛け満載にしていたことだ。

バラエティ番組的な仕掛けやらをしたのではない。それをやっていたらおそらく視聴者からは「早く本編を見せろ」とか「タレントが邪魔」などの不満が出ただろう。仕掛けていたのはCM枠だった。 SoftBankはおなじみの白戸家が登場のCMだが、家族が入れ替わるという『君の名は。』ネタの特別編。SQUARE ENIXのソーシャルゲーム『スクールガールストライカーズ』はキャラクターが「あの隕石が落ちて来なければ!」と叫ぶゲームCM。しかも本編放送中の展開で彗星災害が明かされた後のCM枠でこれを入れるとか、タイミングも作品を初見の人になにげにネタバレ配慮をしている。(笑)

さらに多くの視聴者が驚いたのは主人公・三葉の声を演じた上白石萌音が登場する政府広報『ソサエティ5.0』だろう。ドローンによる宅配や無人運転バスの普及など、社会が目指しているちょっと近未来を描いた内閣府による科学技術政策の広報だ。この1分30秒のCMで上白石萌音はアニメ作中の三葉のような女子高生の姿で登場し、作中と似たようなカットもいくつか登場する。ちょっとした『君の名は。』実写版を見たような気になる。(実際、一瞬そう思って驚いた人もいたようだ)

中でも僕や新海ファンにとって最大のサプライズであったのは、新海誠が手がけた受験の『Z会』のアニメCM『クロスロード』の放送だ。CMというより2分間の短編といった方がいいこの作品はyoutubeで発表されたときから新海ファンの間では大きな話題となっていた。スタッフのメンバーや、全く別の土地に暮らす高校生の男女が出会うまでのミニドラマという共通点もあり、『君の名は。』という企画へと繋がる文脈でも大きな意味を持つ作品だ。15秒と30秒のバージョンはこれまでにも何度か放送をされてきたが、今回、これまでyoutubeでしか公開されていなかった120秒のフルバージョンが初めてTV放送された。

正直、すでに何度も見ていてソフトパッケージも持っている本編よりも、合間のCMの入り方やひねりが面白く、最初から最後まで見入ってしまった。もちろんこれらのCMには後からネットなどで見ることが出来るものも多い。しかし1つの番組枠の中でこれが組まれ、同時に視聴者に向けて流れてくるという、そのことが番組の組み方の趣向や面白さ、遊び心や妙だった。番組スポンサーもがこの放送を盛り上げるためのお祭り感を演出している。僕の周囲でもネットを見ていても、このCMも含めた放送そのものに視聴者からの反響は大きかったようだ。ふつう視聴者がテレビを見て面白いかどうかは「その番組が面白いかどうか」で判断される。CMのことをその評価で考えることはほとんどない。それがCMも含めた全体にここまで好意的な反応があった番組放送は稀だろう。

そして、稀であったと同時に、これは前述したテレビにとって「利便性」と「メリット」と「面白さ」はイコールなのか?ということへの1つの指針ではないかとも感じた。