Mar 24, 2021 column

『ウマ娘』のドラマ性はフィクションとノンフィクションの境界をも突破する

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2月末。Cygamesのゲームアプリ『ウマ娘 プリティーダービー』がついにリリース開始された。当初に発表されていた18年冬から幾度の延期をへてのようやくのスタート。その間にもメディアミックスプロジェクトとしてコミック展開や、18年のアニメ版第1期、現在放送中のアニメ版第2期はあったが、待ちわびていた人は多いかと思う。
と書いているが、以下で書くのはとにかく釘付けになっているアニメ版についてだ。

アニメ『ウマ娘 プリティーダービー』公式サイト
https://anime-umamusume.jp/

『ウマ娘』は主に実在する(あるいは実在した)競走馬をモデルに、それらが人間のような姿をした「ウマ娘」として存在している世界で繰り広げられるレースストーリー。ゲームは彼女らの育成が主となるが、アニメはスポ根ドラマとしての面が大きくなっている。

人間以外の存在を擬人化した作品、それも美少女擬人化は山ほどある。とはいえ馬がモチーフはさすがにイロモノだなあと思いながらも見始めたのだが、毎週見ていた中でその印象はどんどん上方修正されていった。

90年代の10年間くらいに馬券を買っていた。ちょうどその頃の競馬ブームで友人とのつきあいで少しやっていたのだが、とはいえ僕の知識は競馬ファンからすればニワカに毛が生えた程度の薄いものだし、しかもほとんど90年代限定だったりする。だが、『ウマ娘』にはその薄い記憶の中でも残っている馬が多く登場している。

第1期が始まったときにはスペシャルウィークが主人公?懐かしいなと思ったが、とりわけ「え?」と思ったのはメインウマ娘の中にサイレンススズカがいたことだ。
『ウマ娘』の擬人化ではモデルとなった馬の特徴が反映されている。実馬では牡である馬もこの作品では女の子として擬人化されているが、その際も特徴はデザインに反映され、モデルとなった馬の戦績や有名なレースなどはかなりそのまま反映されている。

だから余計にだった。限定的な知識でもさすがにサイレンススズカの悲劇は覚えていたので、それがモデルのキャラクターが出てくる展開は見ていてちょっとツラいものを感じた。SNSを眺めていても当時の競馬ファンなどの多くが同様だったようだ。
だが、アニメはそこで予想外の展開を見せた。アニメにおけるサイレンススズカの奇跡の復活劇はスポ根物の王道とも言える盛り上げだが、史実の点で言えば大嘘になる。しかしそれこそが当時の競馬ファンの多くが望んでいた光景だった。見ていて泣いてしまった。番組が始まったときはイロモノ作品だと思っていたこのアニメで、まさかここまでド直球の感動を見せられと思っていなかった。

そこに僕は“フィクションの力”を見せつけられた。多くの人が願ったが叶わなかった夢の再現。まさにファンタジーだ。馬が女の子に擬人化されているそもそもが大嘘であるからこそ可能な、力技とも言える「だってこれはフィクションなんだ」だからこそ出来たドラマ。擬人化キャラクターである、フィクションである。パッと見こそこイロモノ的と思えた設定とルックでありながら、この作品はそういった条件の全てを逆手に取ることで史実のドラマ化とファンタジー化を成している。