Feb 16, 2017 column

作品から作品へと繋ぐガイド役に。女性誌『CREA』初のアニメ特集が持つ大きな意味。

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昨年の『君の名は。』と『この世界の片隅に』のヒットは、多くの“アニメファンではない人”が観客として劇場に足を運んだことが要因というのは、いまさら書くまでもないだろう。「面白ければアニメだろうが実写だろうが関係ない」という人が増え、アニメ映画を見に来たという意識も希薄で、あくまで話題の作品を見に来たら、それがアニメだったということでしかない。

かつてはジブリ作品とディズニー作品でしか見られなかった傾向が、あたりまえになりつつある。

実際、いまさらアニメに対して偏見を持っている人は昔より遥かに少ない。タレントだってアニメファンであることを公言している人は珍しくもなくなったし、アニメの話題を取り上げるTV番組も増えた。 こうした中で「アニメは自分の興味分野として主食ではなかったが、他にも面白い、自分向きの作品があるのでは?」と思った人も少なくないはずだ。

とはいえ、TVの番組表を見ても新作アニメの数は週に40本近くあるし、過去の話題作といっても星の数ほどある中からどれを選べばいいのか…。僕自身も、アニメファンではない友人から「何か面白いアニメってある?」と聞かれ、何を薦めたものかと悩んだことが何度かある。

そうした空気を感じとったメディア側の人も多くいたのだろう。 先週発売された女性向け月刊誌『CREA(クレア)』3月号が「大人のためのアニメガイド みんなアニメに夢中」というアニメ特集記事を掲載した。 『CREA』は、文藝春秋が発行している20~30代女性をメイン読者層とするカルチャー&ファッション&ライフスタイル誌。創刊時からサブカルチャー系の話題も取り上げることが多かったが、同誌にとって初のアニメ特集になるという。そもそも『CREA』だけでなく、女性誌でアニメ特集が組まれること自体が相当に珍しいし、もしかすると女性誌初と言っていい試みであるのかもしれない。

もちろんこれは、前述した“アニメファンではない人”向けの特集で、そういう意味ではアニメ専門誌を読んでいるような人向けではない…と思ったのだが。 読んでみたら、正直驚いた。 作品のセレクトも面白いし、薦めるポイントの絞り方も頷ける。ジャンルごとにセレクトした数本に絞って敷居を下げた紹介がされており、とてもわかりやすかった。 だが、驚いたのはそのことではない。

アニメファン以外への敷居を下げているが、情報密度は高く、アニメファンをも満足させる濃い内容になっている点にだ。

一般誌におけるアニメ特集はたいがい情報密度が下がる…というより、下げる。アニメファンではない人にはそこまでの話は興味が無い。 アニメには、実写では不可能な映像表現など、アニメ作品ならではの表現手段や、それにともなう“見所”がある。しかしアニメファンではない人には、それらをピンとこない人も多い。歌舞伎など他の文化で考えても同じだろう。「楽しむことは出来たけど、隣のこの人が言っているその見所ってどういうこと?」みたいなことに出くわすことがある。ただ情報密度を下げただけではそれらは伝えられない。

それを踏まえたように、この『CREA』の特集では情報密度を下げていない。全70ページを超えるボリュームで、アニメの制作センテンスや用語の知識といったことから、「“作画がすごい”というのはどういうことなのか」「マンガとアニメは何が違うのか」「実際の風景をアニメに持ち込む意味」等といった内容にまで踏み込み、見方をさらに広げ楽しむための記事が書かれている。 それらはおそらく、アニメにとって根本的なことでもあり、アニメの魅力の入口でもあることだ。それでいて説明が難しいことでもある。アニメファンであってもこれらの理由を明確に説明できる人はどれだけいるだろう?

もちろん、女性誌である特色に沿った視点も多く取り上げられている。例えばファッションについても「アニメにおける服の表現」という切り口だ。このへんは、アニメ誌では取り上げられることもない視点だ。

思い返すと、このようなニーズは潜在的には以前からあったのだと思う。アニメファンではない女性層をターゲットとするフジテレビの深夜アニメ番組枠「ノイタミナ」。日本テレビやTBS系列の深夜アニメにおいても、アニメファン以外の層をターゲットとする作品は増えた。その中には『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』や『ちはやふる』など、ヒット作や話題作も多い。アニメファンではない層を振り向かせたアニメは何本もあった。

だが、そこから他のアニメ作品へも興味をもつ人はあまりにも少なかった。その理由に、今回の『CREA』誌を読んで今さらながら気づかされた。そういう人たちのアンテナに合い、作品から作品へと繋いでいくガイドブックが無かったのだ。 書籍などでのガイドブックはあった。だが、アニメファンではない人たちが普段読んでいる雑誌のそばなど、最も目につきやすい場に、それらは無かった。一般誌、それも女性誌でこの特集が組まれたことの意味は大きい。

表紙イラストは田中将賀によるものだが、『あの花』『君の名は。』といったアニメファン以外にも大ヒットをした作品のデザイナーを起用していることは、“繋いでいく”ことの象徴そのものだろう。

この特集をきっかけに、アニメの知識を少し持った上で、『君の名は。』などの好きな作品を再見するのもいいだろう。「この画。何をスゴイと思ったのかわからなかったけど、そういうことだったのか」など、これまで気づかなかった発見がきっとあるはずだ。 またTVアニメ作品にしても、幸いにして最近では多くの動画配信サービスが誕生し、放送が終了した作品を視聴することは格段に便利になっている。このようなガイドブックを片手に、新たな出会いを見つけるのも面白いだろう。

裾野が広がることには大きな意味や希望がある。「“アニメファンではない人”にも向けたアニメ」が増えることに繋がるかもしれない。その中には『この世界の片隅に』や、今放送中の『昭和元禄落語心中』のような、意外な作品もあるだろう。 ガイドが導く先にあるのは、従来のアニメファンをも楽しませる未来でもあるかもしれないのだ。

文 / 岡野勇(オタク放送作家)

関連書籍

『CREA 2017年3月号』(文藝春秋)

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