Jan 12, 2018 column

映画『君の名は。』お正月テレビ放送に感じた、テレビの可能性とは?

A A
SHARE

今年の正月も、NHK総合で恒例の年1回のトーク番組『新春TV放談』が放送された。 すでに10回目の放送となる。民放で人気番組を手がけたプロデューサーなどもまじえ、テレビ放送の昨年のトレンドの分析や問題点などを掘り下げていく、バラエティテイストながら放送の現状についてけっこう面白い討論がされる番組で、僕は毎年楽しみにしている番組だ。

過去10年間、避けられない課題として上がり続けているのは「テレビ離れ」だ。よく使われるワードだが、しかしテレビ離れと一言でいってもそこには多くの問題があり、実際には幾多の課題や問題がコンフリクトしまくった結果起こっていることが“テレビ離れ”という一言で表されるようになった…というのが正しいだろう。 中でもよく挙がるのは「スポンサーのことを考えれば生で見て欲しい放送事業者」と「そう都合よく見ることは出来ない視聴者」のズレだ。わざわざ放送時間に合わせてテレビのあるところに行きたくないし、CMを飛ばして番組本編だけわかればいい。でもそれでは困る製作者。もちろん配信や動画サイトのほうが面白いからとそちらに流れている視聴者も多い。 映画も海外ドラマも多いし、大手芸能プロダクションである吉本興業も積極的にネット配信番組の製作に力を入れはじめており、昨年はいくつかの番組が話題となった。AbemaTVで配信された元SMAPの3名による『72時間ホンネテレビ』も総視聴数7400万超という結果が注目をされた。さらにこの年明けはNetflixが自社製作に乗り出したアニメ『DEVILMAN crybaby』も大きな話題となっている。配信事業におけるオリジナル実写ドラマの本数は前年比2倍近くになっているが、ついにアニメ製作にも乗り出したのだ。 面白さだけではなく、見たいときに見たいスタイルで見られるのも最大の利便性でありメリットだ。

こういった配信の台頭で影響を受けているのは地上波だけではない。同じくお金を払うCSなどのペイチャンネルも加入者がかなり影響を受けているというのは以前に何かの記事で目にした。地上波では見られない番組もあるとはいえ、基本的に「モニター前で見なければならない」というのは前述の利便性と比べたらやはり不便に思う人もいる。(なので昨今ではオンデマンドサービスも行っているチャンネルもあるが) 僕もここまで配信が充実してきているのを横目で見ていると、「どれかのペイチャンネル解約してもいいかな」となっているが、しかしどうしてもペイチャンネルをあっさり切り捨てられない理由もあるのだ。 たとえば日本映画専門チャンネルでは1月28日から庵野秀明監督の『シン・ゴジラ』および『新世紀エヴァンゲリオン』テレビシリーズ全話と旧劇場版の一挙放送という特集が組まれている。理由はそこではなく、それに合わせて岡本喜八監督の『激動の昭和史 沖縄決戦』『日本のいちばん長い日』『ブルークリスマス』も放送されることだ。庵野監督に大きな影響を与え、『シン・ゴジラ』や『エヴァンゲリオン』をはじめ庵野作品ではこれらの作品のオマージュシーンも多い。僕が惹かれてしまうのはこういうプログラムの組み方の面白さだ。

「どれもそれぞれ配信でチョイスして、それで自分の都合がいい時間に見ればいいじゃないか」と思う人は多いだろう。時間の節約にもなるし効率的だ。配信で多くの作品が見られるメリットを活かした視聴方法になる。利便性とメリットが合致している。 けど、僕は誰か知らない編成担当者が組んだその遊び心や妙が面白くて好きなのだ。名画座で「ああ、この2本でやるのか」と思わされることがあるが、そういう作品セレクトをした劇場の趣向を読む面白さに近い。それを考えてしまったときにどうしてもアッサリと「んじゃこのチャンネル止めて乗り換えましょう」が出来ない。 こういう自分の好みを考えていると、たまに「利便性」と「メリット」と「面白さ」はそれぞれイコールなのか?という問いがわいてくる。 テレビにとっての「面白さ」というのは必ずしも番組や作品そのもののことだけではないのではないか?という疑問だ。

このことを改めて強く感じたのが、テレビ朝日が満を持して1月3日に放送した『君の名は。』の地上波初放送だった。