Jun 04, 2017 column

アニメビジネスの先進的なチャレンジにテレビ業界は何をみるか?

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視聴手段としても、リクープの手段としても、今やアニメと配信は切り離せない物になりつつある。ジャーナリスト数土直志氏による著書『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』(星海社新書)ではインターネット配信が日本のアニメを根本から変えるものとして大きく取り上げられている。そう、“黒船”とは既存のものを根本から変えてしまうほどの“何か”なのだ。

対して、TVドラマが見逃し対策の配信を行い始めたのはアニメから遅れること10年以上もたってからだ。その間、放送とネットの今後が課題として上がるたび、放送事業側は「そういうことは我々の速度でやっていく」と言い続けてきたが、その速度は社会の変化に比べあまりにも遅々としていた。

そんな状況を誰もがわかってるのに、それでも大きな変化はまだ望めないことがさらなる追い打ちだ。例えば番組内で使用した記事や映像の、配信で流す場合の二次使用料がどうなるのか?出演者の権利はどうなるのか?などが壁となり、そのために配信で流すことができない番組も多い。制作サイドはTVer(ティーバー)でも流したいが、そういった諸原因のために流せない番組もある。配信という未来像が見えてから10年以上にもなるのに、いまだそんな問題がクリアされていない。つくづくTV業界が考える“我々の速度”は遅すぎるのだと思う

この数年「TV離れ」から「TVに未来は無い」という結論を述べる論調は多く目にする。僕もここまでそう思われかねないことを書いてきた。

が、個人的には「その結論は早いのでは?」とも思う。配信を巡る動きは日々動いており、ちょっと目を離しただけでも新たなことが起こっている。多くの局が独自にも動画配信の新会社を設立する動きに出ていたり、動画配信会社との共同企画番組の製作などにも乗り出している。世界的に見てもガラパゴス的な日本の放送事業にとって、もはや避けられなくなった配信時代の到来が、低迷する放送事業そのものの福音となるのか否か。フジテレビではそれを象徴するかのようなことが起こった。今年1月期のドラマ『突然ですが、明日結婚します』は視聴率の低さが話題になったが、一方でフジの配信サービス「FOD」では配信視聴が同局ドラマの中で過去最高の記録を作る結果となり困惑と驚きをもたらした。明らかに何かが変わってきているのだ。

その“何か”が何であるのか、誰もわからないからこそ、ほんの少し先を進むアニメ業界のガムシャラな姿には注目すべきだろう。僕は、映像業界を取り巻く新時代のフロンティアを最初に見つけるのは、TVでも映画でもなく、アニメなのではないかと思っている。

文 / 岡野勇(オタク放送作家)