演じることで時代に抵抗する
ーー先般、その”ささやかな抵抗”という言葉をコメントされていました。池松さんは何に対して危機感を感じられていますか？
あらゆることですね。人間の実存についてもそうですし。このドラマは、ある街の話ですけど、それに限られたことではないと思っています。いま世の中の価値観、倫理観、すべてにおいて変わり目です。それがいいものか悪いものかは置いておいて、次の時代に必要ないもの、あるいは必要ないとされてしまうもの、必要ないとされてしまう命までもが、どんどんなくなっていく。益々合理的なものを求めてこの世界を押し進めていけば尚更、本来在るものさえこの世界から失われていくはずです。
あの震災から12年経って、もうすぐこの国は戦後80年になる。80年っていったら、当時を経験された方がいなくなるっていうことですから。そういうあらゆることに対して、フィクションですが、あの街があったということを物語を使ってお届けすることができると思っています。
ーー先ほど話に出たホームレス親子に関しても”底辺からの目線”という話が出ました。以前、出演された『せかいのおきく』(2023) のインタビューでも、そのようにおっしゃっていました。この後にも『白鍵と黒鍵の間に』(2023年10月6日公開)、『愛にイナズマ』(2023年10月27日公開)と出演作品が控えています。いろんな作品で役を演じられている中で、役柄を選ぶ基準はありますか？
様々な役に挑戦したいと思っていますが、自然と自分の好みが出ているとは思います。さっきの底辺からのイマジンという話でいうと、そういうテーマをもった作品は、昔から好きです。
20代前半くらいまでは、そもそも表現とか、そういったものの根源は、弱者のためにあるものだと信じていたところがありました。どんな時代の映画を観て影響を受けたかというのも大きいと思います。1990年代から2000年代の海外のインディペンデント作品、ジャームッシュとか、他にも沢山いるんですが、そういう映画を最も観て育ったっていうのは大きいとは思います。
例えば”男前を演じてください”とか、そういう表面的なことに全く興味がわきませんでした。それよりも例えば”路上の人々を演じてください”と言われる方が、断然、魅力的だったし、その役人生に寄り添うことの意義を感じてきました。
そういった部分は、ずっと変わっていなくて、表現って、ちょっと変な言い方をすると祈りだと思うんです。より切実なものや、より祈りのあるもの、より人間的なもの、声なき声みたいなところに自分が反応しやすいことは昔からずっと理解しています。
ーーだから”ささやかな抵抗”というような表現になるんですね。お話しを聞いていてイマジン、想像力がなくなるのが一番良くない、と感じたのですが。
そうですね。災害が年々増え、もはやこの国の風景のひとつのようになってきていますが、この時代、いつ誰にでも「季節のない街」のような暮らしになる可能性は、ありますよね。この街の人たちに僕も大切なことを教えてもらえたような気がします。
本当にどうしようもない人たちだったけど、本来人がもつ情愛や目に見えない大切なこと、目に見えない優しさによって誰もがなんとか繋ぎとめられていて、痛みを知りながら、みんなが生き生きと暮らしています。
そういった姿が、今の時代に失われたものとして、あるいは失った後、最後まで手放すべきではないものとして、笑いながら面白く観てもらえるんじゃないかなという気がしています。
取材・文 / 小倉靖史
撮影 / 藤本礼奈
ヘアメイク：FUJIU JIMI
“ナニ”から12年。この街には“ナニ”で被災した人々が身を寄せる仮設住宅があった。今もまだ、18世帯ものワケあり住人が暮らしていたが、月収12万を超えると「即立退き」とあって、皆ギリギリの生活を送っていた。主人公の田中新助こと半助は、街で見たもの、聞いた話を報告するだけで「最大1万円！」もらえると軽い気持ちで、この街に潜入する。だが、半助こそ ”ナニ”によって何もかも失い、ただ生きているだけの男だった。しかし、ギリギリの生活の中で、逞しく生きるワケあり住人らを観察するうち半助は次第に、この街の住人たちを好きになっていく。そんな中、仮設住宅が取り壊されるという噂が街に流れはじめるのだが‥‥。
企画・監督・脚本：宮藤官九郎
監督：横浜聡子、渡辺直樹
原作：山本周五郎「季節のない街」
出演：池松壮亮、仲野太賀、渡辺大知、三浦透子、濱田岳、増⼦直純、荒川良々、MEGUMI、高橋メアリージュン、⼜吉直樹、前田敦子、塚地武雅
ディズニープラス「スター」で全10話一挙独占配信中
公式サイト disneyplus.com/ja-jp
