Aug 12, 2023 interview

池松壮亮インタビュー forget me not ーー忘れられていくことへのささやかな抵抗 ドラマ「季節のない街」

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仮設住宅で生活する癖のある面々

ーーこの作品の撮影時期はいつごろですか?

2022年の12月から2023年の2月半ばぐらいまで、茨城県行方市の廃校になった学校の校庭に見事な街のセットを作って、缶詰で撮影していました。オープンセットとホテルを行き来しながら、朝焼けを見て、夜は星や月を見て、また明日という生活は、本当にそこで暮らしているような感覚がありました。 

表面的なコンプライアンスのようなものを逆手に取りつつ、この街で許されること、あるいはこの街で関係ないことを感覚としてどう演じるか。半助の受け止め方によって、その受け取られ方が変わってくるはずなので、そのことは気にしつつ、楽しくのびのびと撮影できました。何より半助が、この街を好きになっていくことが重要だと思っていました。今ではもう取り壊されたあの街を、半助同様恋しく感じています。

ーー近年、池松さんは癖のある役が多かった印象があります。今回演じられた半助は、過去に辛い経験があったとはいえ、登場人物の中では普通の人だったので、新鮮に映りました。半助という役柄を演じるにあたって、どんな心持ちで挑まれましたか?

“普通の人を演じよう”という感覚は特にありませんでした。

痛みを覚えている、知っている人たちのなかに、痛みを忘れていた半助が入ってきて、このドラマにおいて、ホストとして、街の人たちを見つめる役割。いわば宮藤さんが物語に入り込んだような役でした。

癖よりも、どれぐらいフラットにいられたら、入り込み過ぎず、引き過ぎずに、この人たちを見守れるか、あるいは溶け込んでいけるのバランスをとっていたように思います。半助が、あの街にいることで、呼吸をしやすくなっていく過程を、見せていければなと思っていました。

ーー先ほど異種の集まりというお話がでましたが、キャスティング面でも異種の集まりでしたね。そのなかで自分の役割を全うし続けるのは、結構大変でブレちゃいそうな気がしました。

ブレたらブレたで引っ張られたり、振り回されていた方が、面白いはずだという感覚もありました。各話、本当に面白い人たちが出てきてくれていたので。背負い込みすぎずにやれたんじゃないかと思います。

ーー映画『どですかでん』にしても登場人物たちのキャラクター性が濃いですよね。それを1話ずつに分けて、かつ個性豊かなキャストの皆さんが演じられています。池松さん、個人的にはどのキャラクター好きですか?

半助、好きです。すごいフラットな人だなぁと思っていたし、背景は複雑ながらも、諦めてるのか、楽しんでるのかよく分からないあの感じがすごく好きでしたね。

黒澤明の『どですかでん』に関しては、ホームレス親子と六ちゃんがキーとなっていました。見えないことの見えるというか、底辺からのイマジン。この2つのエピソードが核となっています。

今回の「季節のない街」に関して言うと、宮藤さんの情愛とユーモアのバランスが、存分に足されていて、全話に季節のない街なるものが漂っているような作りになっています。全部面白いですが、藤井さんの回 (第5話「僕のワイフ」) とか、いい話だなと思っています。全部好きです(笑)。

ーー仮設住宅のセットで缶詰状態だったということで、撮影以外では皆さん何をして過ごされていましたか?

ゲラゲラ笑いながら毎日を過ごしていました。近くにあるお風呂に行くと荒川さんにあったり、水風呂に入ってたら隣に宮藤さんがいたり、そんな環境でしたね。行きつけの焼肉屋さんができたり、楽しい日々でした。

ーードラマを観ていても、皆さんがすごく仲がいい雰囲気が伝わってきました。現場ではアドリブ満載だったんじゃないかと思っていますが、実際はいかがでしたか?

アドリブというかみんな、脚本に書かれていることをちゃんとやりながら、現場で膨らましていきました。

この時代の大きな変わり目の中で、様々な古きものが失われていくと同時に、誰かにとって失われてほしくないことやものも失われてしまうこと、忘れられていくこと。そのことに対して、ささやかながらの抵抗というのか。登場人物みんなで、この街がなくなるまで楽しむことで、それがあの街があったという物語になればと思っていました。