映画とは誰かと自分をつなげるもの
池ノ辺 私は、この作品だけでなく、これまでの監督の手がけたドラマなどを見て、すごくお会いしたいと思ったんです。というのも監督のドラマは、人間が生きていく上でのつらいことや悲しいこと、そういうことの表現が素敵で、ぐいぐい惹かれるんですよね。たとえば本作でいえば、余命1年の人に会う経験などめったにないのに、観る人がそこに寄り添うことができる。どういうところからそれが可能になるんだろうと思ったんです。
風間 嬉しいです。僕としては、誰よりも個々を理解したいなと思いながら撮っているところはあるかなと思っています。よく「性善説の男だ」って言われるんですけど、この人がこうならざるを得なかった、ということをいつも考えたいと思ってしまうんです。たとえば、僕の作品の中では大変な事件を起こすような人は今まで登場してはいないんですが、人にとっては嫌な出来事になるようなことを言ったりやったり、そういう行動をとる人物がいたとして、「なんでそんなひどいことを」という『分からなさ』を自分の中で埋めてしまうんです。それはある意味、良し悪しがあるなと、最近はそう思いながら映画を撮っているんですが、その人との距離を埋めるには、自分がいちばんの理解者になり、その人を極力肯定したいと思いながら向き合うしかないんじゃないかと思ってきたんです。
池ノ辺 それはすごいですね。
風間 それが今回の作品では、特に唯は、最初から自分との距離があって、わからなさの方が多かったと思うんですが、そこを無理に自分で埋めようとしたり、無理にわかろうとしたりせず、これはこれで彼女の生き様なんだと自分の中で腹落ちすればいい、という受け止め方にシフトしたことは、新たな挑戦でした。そうはいっても、登場するキャラクターの内面とかその背景はできる限りきちんと想像した上で作品に取り組んでいきたいという思いはあるので、いつもと同じように、登場人物の履歴であるサブテキストを準備しています。つまり、物語の外側にある、特にその人物の過去の部分の記憶を、この資料によって手に入れてもらうということです。

池ノ辺 それは出演者の皆さんにいつも渡しているんですか。
風間 個々に渡しています。衣小合わせや本読みを含め、事前に共通言語と背景を持って現場に入ってきてもらうので、現場に来てから改めて人物造形を掘り下げることはあえてしていないかもしれません。いまこのとき、その人の感じ入る物事に向き合うこと、それだけに集中して現場にはいるような感じです。
池ノ辺 余命1年というのでもっと深刻な、悲しい物語を想像していたんですが、現場は結構楽しく撮影していたとか。
風間 瀬名と唯のシーンで、特に後半は、実家のエピソードとか、お互いの踏み込まれたくない領域に入ってしまうエピソードなど、張り詰めるようなシーンもありましたけど、基本的には、唯がこの後に自分の人生をどのように過ごしていきたいか、その気分にしっかりと乗っていけるような作品にしなければいけないと思いました。余命という制限がありながら、その最後の到達点というものが遠くには見えているのですが、唯は詳しくは語らない。そんな唯に対して、瀬名は寄り添うしかない。瀬名はホストとして振る舞うことで、唯の選択に並走していく。唯が楽しむのなら、こっちも楽しんでいこうよ、というのはあったと思います。物語の進行につれて、唯自身がいつの間にか感じてしまっている自分の心許なさ、その先に滲んでくる生命感、感情の産声。唯の愛しい無駄遣いと、それにより湧き立つ生活の彩り。唯のジェットコースターのように目まぐるしく変化していく感情の機微と活力は、この作品の魅力となって届くんだろうと思いました。

池ノ辺 それでは最後の質問です。監督はこれまでいろんな映像作品を撮られていますけど、監督にとってドラマ、映画って何ですか。
風間 すごい質問ですね(笑)。今回の作品で言えば、自分にとってはわからないものへのアプローチということが、ひとつテーマにあると思いますが、映画というのは誰かと自分の接点になっているものじゃないかなと思います。作品ごとに届けたい人は明確にいて、届けようと思って呼びかけている自分自身と届けたい相手の日々が、映画を通してつながる。そこにロマンスがあるんじゃないかと思っています。でも、その間には、たとえばドラマ「silent」(2022) だったらろう者の方たち、「チェリまほ」でいえば、男性同士の恋愛のかたちに葛藤する人たちがいて、観る人は、その物語に共感するとか、違和感を持つとか、登場人物に接点を持つことでつながってしまう、それが映画でありドラマであるという思いもあります。物語とその身近にいる人たちを想像すること、大切にすること、それはいつも心掛けていることです。
池ノ辺 それが監督の優しさであり、それによって観る人が心を打たれる作品になっているということなんでしょうね。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理
監督
山形県出身。大学在学中、映画監督の根岸吉太郎・前田哲に学ぶ。2014年にAOI Pro.入社。映画『チア男子!!』(19)で長編監督デビュー。その後、ドラマ「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(20)が好評を博す。2022年放送のドラマ「silent」は社会現象とも言える広がりを見せ、最年少で大山勝美賞を含む各賞を受賞。その他の作品にドラマ「海のはじまり」(24)、映画『バジーノイズ』(24)、『モブ子の恋』(26)などがある

節約を趣味として生きる40歳独身女性、片倉唯。老後資金のために頑張って堅実な日々を過ごしていたはずの唯は、ある日受けた無料がん検診で余命一年を宣告される。思わぬ出来事に見舞われるなか、唯の前に突如ピンク頭のイケメンホスト・瀬名が現れ「お金、貸してくんない?」と頼み事をしてきた。死ぬのならもう、節約なんて必要ない。大胆なお願いを受け入れた唯は、72万円で瀬名を“買った”。奇妙な2人の関係は、思いもよらない形へと変貌していく。
監督:風間太樹
原作:吉川トリコ『余命一年、男をかう』(講談社文庫)
出演:柴咲コウ、赤楚衛二、筒井道隆、西田尚美、濱田マリ、鳴海唯、森口瑤子、宮世琉弥、尾碕真花、近藤公園
Netflixにて世界独占配信中
作品ページ 余命一年男をかう