絶妙な空気感を作り上げた勝因は、「焼肉屋」という選択
池ノ辺 瀬名役の赤楚衛二くんもぴったりの配役でしたね。
風間 彼にオファーした後の面談で久しぶりに会ったときには、本人は不安がっていましたけどね。
池ノ辺 自分にできるかなと思っていたということですか。
風間 瀬名がホストとして唯と関わっていく中での軽やかさとか、ちょっとチャラチャラしたところとか、そういうものを自分が演じるときにどう表現できるのかなと、不安に思う部分があったみたいです。ただ、僕が赤楚くんに感じていた魅力というのは人間関係における「身軽さ」だと思っていて。それは、人を緊張させない親しみやすさとか、人に踏み込み過ぎない優しさとか、そういう安心を内包した身軽さです。赤楚君なら、自然体でそれをやってのける。彼の中に瀬名を入れたときに「おかしみ」「親しみ」が立ち上がり、且つ「憎めないやつ」として、いいチューニングになるんじゃないか、そう思っていたんです。ですからそのままやれば大丈夫だよと、まずそれだけはひとこと言いました。

池ノ辺 赤楚くんとは何度か一緒にお仕事されているんですよね。
風間 はい。過去にドラマ「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(2020)と、その劇場版『チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~』(2022)でご一緒しています。それ以降も全然会わなかったわけではなくて、たまたま撮影所などでばったり会ったり、一緒にご飯にも行ったりしていました。この間、芝居に対する考え方でいろいろ試行錯誤しているなとか、悩んでいるなとか、そういうところも見てきて、でもある時点で超えたのかなと、そういう感覚もありました。だから今回現場で再会したときには、脱力して楽しんでいる、そういう感じがすごくありました。もちろんそれは、瀬名という人物に寄せた意識もあったとは思いますけど。
池ノ辺 瀬名って、チャラ男ですけど寂しがりのところもあり、でも本当に素直でいい子なんですよね。
風間 家庭環境としては真っ直ぐ綺麗に育てられてきているんですよね。ただ、お金で苦労したり父が堅物だったりしたことから、自己を捻じ曲げざるを得ない時期を過ごしたこともある。それでも心根は透き通った人であるために規範が自分をコーティングしているところもあり、カップルとしては男性はこうあるべきとか、お付き合いするんだったらこういう段取りを踏まなきゃとか、そういうところでは唯以上に形にとらわれているんじゃないかと思いますね。そして彼が当たり前に思ってきたそういうところを唯がぶち壊していく。それは今回のバディ関係、凸凹コンビとして面白いところじゃないかと思っています(笑)。


池ノ辺 最高の2人でしたね(笑)。監督が見ていて、2人の掛け合いとして面白かったエピソードはありますか。
風間 現場で見ていて面白いなと思ったのは焼肉屋のシーンです。焼肉屋に来ている訳ですから、前提として2人の一定の時間が確保されている、ある種許された脱力の時間なんですよ。一応、70時間の契約を交わすという大事なシーンでもあるんですけど、唯が契約の条項を説明しているのに瀬名は軽々しく「了解!」とか言っちゃうし、唯は唯で焼肉に夢中だったり。凸凹で、お互いのベクトルが合っていないようでいて空気感とかリズムだけは合っている、ムードが一緒になっている、そんなところが見ているこちらも面白かったですね。
池ノ辺 2人がある程度同じ時間を過ごしたからこその空気感、ということもあったんでしょうか。
風間 そうですね。物語の流れとしては、あの後に70時間の「シンデレラタイム」が来るわけですが、あそこに至るまでに、まず出会って病院があってラブホに行ってカラオケ屋に行ってと、お互いになんか怪しいと思いながら疑いながら、よくわからずに納得が追いつかないまま事態が進む。それがあの焼肉屋で契約を交わして、きちんとお金の対価関係になるわけです。つまりその契約によって、その緊張をはらんだ空気がちょっと緩んで、お金のためだったら頑張れるとかお金を払っているんだからその時間は遠慮せずに一緒にいて大丈夫という、そういう安心感が見えるシーンにしたいと思ったんです。結果的にその取引の場を焼肉屋にしちゃったというのが勝因ですね(笑)。
池ノ辺 確かに、焼肉を一緒に食べるって、ある程度の信頼関係がないとできないですしね。
風間 はい。だからこそ思いがけず、面白いシーンになったと思います。現場ではカメラの外側でも2人はコミュニケーションを大事にして過ごしていてくれたようで、それも含めて、それまでの頑ななものが揺らぐ、ほつれる、そういうシーンになったのかなと思います。
池ノ辺 別の場所で行われていたお二人のインタビュー風景がとても楽しそうで、撮影はもちろん、出来上がったものへの感謝の思いも伝わってきました。
風間 嬉しいです。それが何よりですね。
