フィルムの字幕加工の流れ
池ノ辺 これが今回向こうから届いたフィルムですね。
早川 “「8巻1セット」もしくは「2箱(1箱4巻入り)が1セット”で、3セット。つまり3本分です。今、3本目が届いたところでその作業をしています。


池ノ辺 字幕加工、いわゆるパチ打ちの作業というのはどういった流れで行われるんですか。
仁村 まず、映像は作業用にビデオにします。今回は横長のスコープサイズのフィルムなんですが、それをビデオテープに録画する。
池ノ辺 テレシネ (ビデオ・デジタルデータ変換) した映像ですね。
仁村 一方で、字幕の原稿は、WordやExcelのテキストデータとしてもらいます。そのテキストデータとタイミング、フィート (尺) を合わせるという作業をまた別のパソコンで行います。


池ノ辺 フィートを合わせるというのは?
仁村 例えば、フィートの頭、06フィートから10フィートまでにこの字幕が入るというイン・アウトのリストがあって、それが実際の映像と合っているかどうかの確認がまず必要です。それができると、打ち込み用のデータができたということになって、次の工程に移ります。
池ノ辺 原稿を元に、セリフにあわせて日本語の字幕が、どこからどこまで出てくるのかを確認して、その位置をフィートに換算してこれをリストにする。そのあとは、このスーパーをビデオに仮に入れてみるということですか。
仁村 そうですね。そしてこの時に、たとえば字幕を置いたところのバックが白くて読みにくくなっていないかとか口元などにかかっていないかといったことをチェックして、もしそうなっていたら、右や左寄りに字幕をずらします。
斎藤 今回の『アン・リー』は、ディズニーさんから完成版の字幕データをいただいたので、そのタイムコードをこちらでフィートに変換して使いました。


早川 そして次の作業は、レーザーの打ち込みになります。
池ノ辺 打ち込みというのはどういうものですか。
早川 フィルムに直接、字幕の文字をレーザーで焼き込んでいくんです。1コマ1コマ。
池ノ辺 それって手作業じゃないですよね。
早川 もちろん機械です。ただ、焼き込む文字がものすごく小さいんですよ。


池ノ辺 この機械はいつごろから使っているんですか。
早川 本当に全盛期の頃から使っています。今はたまにしか動かさないので、電源を入れても動かないんじゃないかくらいの年代ものです。
池ノ辺 私は今、何かものすごいものを拝見している気がしています。このパソコンなんかWindows98だし。
仁村 実は、今使っている35ミリ用のソフトが、古いパソコンにしか対応していなくて‥‥新しいパソコンだと使えないんです。
池ノ辺 それでもまだ現役で動いているんですね。98ってことは30年近く前ってことですよね。しかも、3.5インチのフロッピーディスクも!


仁村 そうです。これにデータを保存して、レーザーの打ち込み機につなぎます。
池ノ辺 古いけれどこれがあるおかげで、フィルムに字幕の焼き込みができるんですね。
斎藤 この機械でレーザーを作って、ここからレーザー光を出します。これは直視しちゃダメです。そしてこのレーザーで、文字の載ったところをフィルムの表面だけに焼くんです。ベース面までうっすら焼いていきます。
池ノ辺 なぜうっすらなんですか。
斎藤 焼きすぎると穴が空いてしまいますから。できるだけ表面を、でも焼き切らないように。それで文字のところが白くなるわけです。
池ノ辺 なるほど。


斎藤 レーザーの機械がフィルムを回して字幕を焼き付けていくわけですが、字幕の入るところはゆっくり回して、字幕のないところは早回しになる構造になっています。それで、焼き付けただけの状態だとあまりくっきりとは見えないと思うんですが、このあとクリーニングをして、焼いたことで付着した煤を綺麗に除去します。
池ノ辺 そうすると文字がくっきりするわけですね。この機械はどこの製品ですか。
斎藤 レーザーはアメリカ製でシステムはフランスだったと思います。
池ノ辺 じゃあアメリカやフランスも同じように字幕加工をしていたということですか。
斎藤 アメリカ製のレーザーは元々は別の用途で作られたものですね。


池ノ辺 1巻終えるのにどれくらいの時間がかかるんですか。
仁村 もちろんその時のセリフの量によって違うので、1時間でできるものもあれば2時間かかるものもあります。今回の『アン・リー』は割とセリフが多く、ミュージカルなので歌いながらのセリフもありますから、ある程度時間がかかります。
池ノ辺 そうして字幕を入れた初号が出来上がるわけですね。
仁村 昔は、字幕を入れたものがそのまま1号品だったので、字幕のプリントはそこから字幕修正が結構出たんです。ですからそのままの形ではなかなか劇場には出ない。そのうち、VHSで仮ミックスという字幕を仮に入れたものが作れるようになって、それを配給会社さんにお渡しして確認してもらうということができるようになりました。
池ノ辺 そこでいろいろ修正してから本番の初号になったということですね。
仁村 そうです。それだと1号品をそのまま劇場さんに使っていただくということが増えました。
池ノ辺 確かに昔と今とでは初号の重みが違いますね。昔の初号は劇場には回せなかったですよね。
仁村 そうなんです。翻訳の方が試写で観て「これじゃ読みきれない」とか結構直しがありました。でもそれは今でもありますね。仮ミックスは配給会社さんだけでなく翻訳の方にも観ていただくんですが、そこであの字幕はどうしようとか擦り合わせていくので、その分精度は高くなります。な感覚ですね。そうした人間の脳の不思議さということも含めて、この作品を作り上げる時の思いとしてありました。
