仁村 あとはやはりデジタルと違って間違えられないという緊張感はあります。デジタルももちろん間違えないように作っていますけど、間違えたらデータ上で修正できる。でもプリントは物理的に削っていくものなので間違えられない。
早川 そうです。もしミスしてしまったら、改めてプリントを取り寄せてもらわなきゃいけない。DCPならデータ上で間違っていれば、そこでまた修正をかければいいですけど、実際焼いたものに対して修正するというのはもう不可能なことなので。
池ノ辺 それは大変‥‥。現在、シネアーツさんは、職人さんは何人くらいいらっしゃるんですか。
斎藤 社員としては10人くらいです。ただ、フィルムを扱えるとなるともうこの2人だけしかいないですね。
池ノ辺 そうなんですね。仁村さんはこのお仕事はどのくらいやってらっしゃるんですか。
仁村 30年くらいですね。
池ノ辺 じゃあ、フィルムから始まって、DCPになる今まで、ずっとフィルムもやってこられたんですね。
仁村 とにかく機械が壊れたら終わりだなって思いながら、やってきました (笑)。
早川 この間も久々にフィルムのお仕事だと思って電源を入れたら、すごい音がしましたからね。「ゴーッ! 」って。
斎藤 本当に老体に鞭打ったような悲鳴とも取れるような「キーッ! 」みたいな音ですよ (笑)。実際、本番のプリントが来ても、すぐにフィルムをこの機械に入れるわけにはいかなくて、事前にテストします。でもその時点ですでに機械自体が消耗しだすわけですから、果たして本編の最後までもってくれるか‥‥途中で止まらないだろうかと不安は常にあります。
池ノ辺 今回の『アン・リー』のプリントは、上映館3館分、つまり3セットが送られてきたわけですね。プリントに関しては、日本では焼けないのでアメリカやオーストラリアなどの比較的状態のいいユーズドのプリントをかき集めて送ってきていると聞いています。
早川 ユーズドだったんですか。でも1セットは「ニュー (新品)」がありましたよ。
池ノ辺 1巻分足りなくてその分だけ向こうで焼いたらしいです。ちなみに、アメリカでもフィルムでかけられるところは限られているらしいので、ほとんどはDCPということですね。あと、特別限定で70ミリのブローアップを先行で公開したそうです。
斎藤 35ミリで撮ってそれをわざわざ70ミリに ? ということは70ミリの映写機も残っているということですね。すごい。
池ノ辺 本作の脚本等で制作に関わっているブラディ・コーベット氏と本作のモナ・ファストヴォールド監督はご夫婦で、『ブルータリスト』(2024) を撮ったのがコーベット監督です。その時は70ミリで撮ったそうです。でも『アン・リー』は、静かな場面やミュージカルのシーンがある。70ミリだとカメラの機械音で撮影現場がうるさくなってしまうので35ミリにしたそうです。ただ、ディテールを見せたいので70ミリにブローアップしたそうなんです。ただ、本来意図した映像はフィルムで再現する映像でしょうから、大多数の上映がDCPでも、できればフィルムで観てほしいという希望が監督にはあったんでしょうね。
DCPの映像に慣れてしまうとフィルムって「ちょっと暗くて画がわかりづらい」と思ってしまう人もいると思うんですが、あの暗さがフィルムの良さでもあると思うんです。自然光とろうそくしかないあの時代の世界が表現できる。それに質感、奥行き、深みが全然違う、フィルムならではのものがありますよね。それは、デジタルでは表現できない。緊張感も含めて、現場の空気感も違う。何より間違っちゃいけないというプレッシャーもあるでしょうけど。