犯罪サスペンスを撮る上でのこだわり
──殺人鬼が撮った絞殺シーンは、日本のメジャー作品ではなかなか見ることのない生々しい映像です。
被害者遺族が22年間にわたって犯人に対してずっと抱き続けている感情というものがこの作品の核なので、その核になるものがぬるいと成立しません。もちろん現実では犯罪は許されない反社会的行為ですが、映画としてどこまで描けるのか挑戦してみようという意識でした。実際に映画に使われているのは一部分だけですが、僕のこだわりとして、絞殺場面は1シーン1カットの長回しで撮影したんです。アクションコーディネーターの立ち会いのもと、安全な形で撮影したんですが、何度もテイクを重ねたので首を締められる石橋杏奈さんたちはかなり大変だったと思います。
──本格的サスペンス映画として成立させる上で、犯罪シーンはないがしろにはできなかった。
僕自身も犯罪サスペンスものは好きでよく観ますが、観客の立場で見ると、犯罪シーンが甘いと冷めてしまうんです。今回の撮影に入る前に、デヴィッド・フィンチャー監督が実在の連続殺人事件を題材にした『ゾディアック』(07年)を見直したんですが、やはり衝撃的でした。『22年目の告白-私が殺人犯です-』はある種、お客さんとの知恵比べみたいな作品。お客さんが「えっ」と驚くぐらいまで踏み込みたかったんです。
──1995年のパートは16ミリフィルム、真犯人の撮った映像は家庭用ビデオカメラのHi8。また、テレビ局のスタジオシーンは長回し、オリジナルとは異なるクライマックスはPOV(ポイント・オブ・ビュー)スタイルを導入したり、と様々な撮影方法を駆使しているのも印象的です。
フィルム撮影は大学時代以来で、久々で緊張しましたね(笑)。物語が22年間にわたるので、いろんな撮影機材を使っています。撮影の今井孝博さんは『共喰い』『凶悪』(13年)などを撮られた方ですが、本作の打ち合わせの際に「いろんなメディアを使って、いろんな撮り方に挑戦してみましょう」と言ってもらえたのがうれしかったですね。“サスペンス映画の巨匠”と呼ばれたヒッチコック監督の作品は今ではクラシック扱いされていますけど、当時の様々な先端技術を取り入れて名作の数々を残しているわけです。今回、いろんなことに挑戦させてもらえて、すごく有り難かったですよ。
入江監督が惚れた俳優たち
──殺人犯・曾根崎を演じたのは藤原竜也。三池崇史監督の『藁の楯』(13年)、大友啓史監督の『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(14年)に続いて、ワーナー作品でシリアルキラー役を演じることに。
藤原さんは、やっぱり主演俳優としてのオーラを持った人です。今回の曾根崎は普通の俳優には演じられません。今の日本でこの役を演じられる俳優って、ひと握りしかいない。そもそも、『藁の楯』みたいな生理的に嫌悪感を催す役に挑みたがる俳優はそうそういません。撮影現場では座長として明るく振る舞っていますし、これまでよりもさらに前へ進みたいという貪欲さも持っています。監督として、惚れてしまいますね(笑)。
──曾根崎を徹底的にマークする刑事・牧村は伊藤英明。今回は正義一直線の役ではなく、“笑い男”のように口が裂けた複雑なキャラクターになっています。
確かに伊藤さんはこれまでワイルドな役が多かった。でも、今回すごく良かったのは、感情を抑えた演技をしてくれたことですね。藤原さんもそうですけど、感情を爆発させる派手な芝居ではなく、感情を抑制させ、秘めた熱さをうまく表現してくれたんです。自分の中のエネルギーを外へ発散させる芝居のほうが簡単で分かりやすいですから。2人が抑えた芝居をしたお陰で、サスペンスとしての面白さがより出てきたと思いますね。
──被害者遺族のひとりを演じたのは夏帆。入江監督が参加した連ドラ版『みんな!エスパーだよ!』(テレビ東京系)でも深夜ドラマと思えないほどの熱演ぶりを見せていました。
夏帆さんは撮影現場に余計なものを持ち込まない、作品の世界に没頭する女優です。「みんな!エスパーだよ!」ではパンチラなど過激なシーンばかりだったんですが、すごく一途に演じてくれた。「みんな!エスパーだよ!」が終わった後、「また、何かやりましょう」と話していたんです。残念なことに僕が撮るのは男臭い作品が多いので、なかなか夏帆さんに出てもらえる機会がなかったんですが、今回は年齢的にも夏帆さんに合う役があるなということで声を掛けさせてもらったんですが、「みんな!エスパーだよ!」とは180度異なるシリアスな作品で、しかも15年前に目の前で家族を惨殺された被害者遺族という難役。よく受けてくれたなと感謝しています(笑)。でも、この役を夏帆さんが受けてくれてよかった。藤原竜也さん、伊藤英明さんが演じた役はあまりにも別次元のキャラクターなので、夏帆さんが演じた美晴みたいな普通の女性がいることで、観客は物語に感情移入することができる。観客と物語との仲介役として重要な役だったと思います。若手女優の中で、夏帆さんは抜きん出ている存在ですね。僕が大好きな女優です(笑)。