Aug 27, 2019 regular
ブロードウェイ here and now

ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル/Moulin Rouge! The Musical

ミュージカル
ブロードウェイ
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去年、ボストンでの公演で大成功を収めた後、この夏にブロードウェイ公開となった『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』。大ヒットした2001年の映画に勝るとも劣らない豪華な作品に仕上がったと評判だ。劇場に入れば壁、床、舞台装置は真紅の基調色で統一され、19世紀末のパリの夜の絢爛豪華さが、醸し出されている。通路の照明さえも蝋燭のような電球を天使が支えていて、当時のムーラン・ルージュはさもありなんと納得してしまった。ステージの手前にはいくつものシャンデリアが垂れ下がり、その左右には金色に縁どられたグランド・ボックス席が設置されている。右側のボックス席の上の壁からは大きな青い象が上半身を突き出し、左のボックス席の屋根には大きな赤い風車が置かれ、その派手さに目を見張る。

開演数十分前から本編の雰囲気づくりが始まる。ボックス席と舞台前方で、この後の舞台のキャバレーで働く美しく若い男女が、観客をゆっくり見つめながらポーズを取ったり、こちらに挑戦するかのようにじっと凝視し始める。ゴシック調が多少入ったセクシーな衣装を身につけた彼等は、贅沢で華やかで、でも少し退廃的な19世紀末の気分を、観客に振りまいているのだ。

ストーリーを詳しく紹介するつもりだったが、序盤から中盤にかけては映画とさほど変わらないので簡単に記すに留めたい。時代は1899年。場所はパリ・モンマルトルのキャバレー、ムーラン・ルージュ。ベル・エポックに湧く欧州とはいえ、フランスでは大統領の暗殺や犯人の冤罪事件など、政治的混乱が続く真っ最中。ムーラン・ルージュの経営も次々と繰り出す舞台がヒットせず、思わしくないようだ。

そんなパリにやって来たアメリカ人で作家志望のクリスチャンは、ひょんなことからムーラン・ルージュで曲を書くことになる。そこにいたのは他の踊り子達から慕われ、頼られるベテランのサティーンだった。やがて強く愛し合うことになるこの二人を演じるのは、わずか二十歳でミュージカル『レント』の全米ツアーに加わり、映画『レ・ミゼラブル』で存在感を示した現在36歳のアーロン・トヴェイトと、『ウエスト・サイド物語』『イン・ザ・ハイツ』でトニー賞を受賞し、テレビでも活躍する42歳のカレン・オリヴォだ。旬が過ぎつつあると感じている熟女のサティーンをカレンは演じる。しかし声の調子が良くなかったのか、アーロンに見合う声量を出し続けるのが辛そうだった。一時的であることを祈りたい。

そんな二人の様子を伺っているのは、ボスでありながらサティーンとある種の信頼関係を持つムーラン・ルージュの経営者ハロルド・ジドラーと、彼女に首ったけで、その富の力を使ってサティーンだけでなくハロルドさえもコントロールしようとする狡猾なモンロス公爵だ。ハロルド・ジドラーを演じるのは、今年のトニー賞会場の大スクリーンの中で、迫りくるキングコングの肩に乗っていたダニー・バースタイン。そしてモンロス公爵を演じるのは、数々の名作で主役をこなしたベテラン、タム・ムトゥだ。

前回の記事でも触れたように本作品は、ジュークボックス・スタイルをとっているが、特定のアーティストに焦点を絞っているわけではない。異なるさまざまなポップ・ヒットが散りばめられており、あえて言うならジュークボックスに近いのはこちらかもしれない。プレイビルには74曲が載っている。しかし著作権等をクリアしたそれら記載曲以外にも何曲かあるので、操作卓に向かっていた音響オペレーターにそれとなく訊いてみたが、「数えていないので、わからないよ」とにべもなかった。映画で使われていたかつてのヒット曲はもちろん、2001年以降のレディー・ガガやビヨンセなどの40曲あまりが、新たに登場した。中には一節だけしか歌われないものや、歌詞がセリフとなって一言二言だけだったりするので、「曲名当てクイズ」のようで、洋楽好きな方は楽しめる。

ポップ曲の歌詞はわかりやすい反面、凡俗になりがちだ。しかし作品ではその陳腐さもユーモアとして笑えるようになっている。とはいえこの作品、喜劇ではない。最初はいいが、2幕目にもなると、もっと深い内容を表現する気の利いた台詞が聞きたくなってくる。終幕前にはクリスチャン達4人の男優が、「人生では自由、美、真実、愛が一番大事」と朗々と吟じる。作品のテーマのひとつにボヘミアンに憧れる人々のレクイエムがあるのだろう。その理想をストーリーに組み込もうとしたのかもしれないが、この時代のパリに集まった芸術家達の思いを描くのは、そう簡単ではないと感じた。とはいえ、たくさんのポップスを聞けたのだから贅沢な望みか。

キャバレーのオーナーを演じるダニー・バースタインや、ロートレックを演じるサー・エンガジャの哀愁を込めた演技には慰められた。またサンティアゴの恋人のニニ役を務めるロビン・ハーダーのダンスの切れ味には、脱帽する。

とにかくこの作品、目だけで贅沢さを満喫できる。もう一度観てみたい。が、いい席は飛ぶように売れているので、いつになるやら…。

Al Hirschfeld Theatre
302 W 45th St
New York, NY 10036
上演時間: 2時間45分 (休憩15分)
SCORES
舞台セット
10
作詞作曲
7
振付
7
衣装
10
照明
8
総合
8
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井村 まどか

ニューヨークを拠点に、ブログ「ブロードウェイ交差点」を書く。NHK コスモメディア社のエグゼクティブ・プロデューサーで、アメリカの「ドラマ・デスク賞」の審査・選考委員も務める。 協力:影山雄成(トニー賞授賞式の日本の放送で、解説者として出演する演劇ジャーナリスト)

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