Nov 07, 2026 interview

三島有紀子 監督が語る 松岡茉優と成田凌が体現した、想像を超えるふたりの時間 映画『男ともだち』

A A
SHARE

「開けた」街・広島の美しさから伝えていくもの

池ノ辺 先ほどは、京都での撮影の話でしたが、本作の舞台は京都・富山・広島で、他に福井と広島でも撮影されているんですよね。

三島 京都というのは、ふたりがかつて過ごした街で、その過去の街を、今の話をしながら辿る場所と思って撮っています。撮影地の福井は、今、ハセオがまさに暮らしている、生きている街。そこでは静寂の中にふたりがいる。まるで世界にふたりしかいない、繭の中に存在しているような感じで撮っていこうと思いました。ただし、そこで神名は画家として、心の奥底の業を再発見してしまうのですが。そうして広島で撮ったときに、何か「開けた」と思ったんです。



池ノ辺 開けた、というのは?

三島 閉じていた何かが、広島を撮ったときにすごく開いたなと思ったんです。自分のこともまわりのことも見えていなかった神名が、この世界を「見る」ことができたんだと感じました。広島という街の持つオリジナリティなのかもしれないです。そしてこの2026年のこの時代に原爆ドームを撮るということの難しさも同時に感じました。原爆ドームを撮って、しかも「美しい」と言っていいのかどうか、ということも深く考えました。「これは違うシーンに変えてしまうこともありなんじゃないか」「見ている顔だけで対象を見せないのもありなのではないか」というところまでスタッフといろいろ話しました。でも何度か広島に通って、これがなぜ美しいと自分にも思えるのかと思考しつづけましたら、この原爆ドームをずっと残してきた広島の人たち、しかもそこから目を逸らさずに世界を「見て」、日常の中で祈り続けている広島の人たちこそが美しいのだと、そこに辿り着いたんです。だから、実際に広島の人たちが日常の、通勤通学の中で当たり前のように手を合わせるというカットも含めて原爆ドームを撮りたいと思いました。そうして撮ったときに、神名が絵に託したメッセージと広島の人たちの姿というものが私の中で太くつながったんです。それは神名とハセオのふたりの関係性ということだけじゃなく、人間が生きていく上で、人と寄り添うということがどういうことなのか、そこをこの街に教えられた気がしました。同時に「開けた」という感覚は、発信していくこと、発信していくべきことなんだと、自分が改めて思えたんです。


池ノ辺 今までのお話を聞くと、まさに作られるべき映画だったということがよくわかりました。それでは、最後の質問です。監督にとって映画って何ですか。

三島 映像と音を組み合わせて新しく発見する「真理」みたいなものでしょうか。私の中では、その真理を見つける旅。私自身がそれを見つけたいと思っていて、でも見つけたその答えを見せるというよりは、そのプロセスではないかと思います。イ・チャンドン監督の作品がとても好きなんですが、彼の『ポエトリー アグネスの詩』(2010)という映画は、「あなたの、あなたが思う美しいものを見つけてください」というところから始まるんです。私にとって映画というのは、私自身が思う美しいものを見せること。それは別にルックスが美しいとか整っているということではなくて、無様でも何とか生きていこうとする人間の姿だったり、という美しさ。そういう人間を見ていたい、よくわからない人間を研究するものの一つでしょうか。それが人生だと言われれば人生ですけど。

池ノ辺 今回の作品でも、それが表現されていると思います。

三島 いくつもの出会いと何人もの人たちの思いと、その仕事ぶりの積み重ねがひとつの作品になっているので、それが公開されるということ自体がすでに奇跡に近いものがあると毎回思います。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理

プロフィール
三島 有紀子(みしま ゆきこ)

監督

大阪府出身。18 歳から自主映画を撮り始め、NHK でドキュメンタリー制作に携わった後、2003 年に独立。2017 年『幼な子われらに生まれ』で、第 41 回モントリオール世界映画祭審査員特別大賞、第 42 回報知映画賞監督賞など国内外で多数の映画賞を受賞。『Red』(20)はフランスでも公開され、第 9 回シアトル映画祭では最優秀作品賞を受賞、2024 年には、長編 10 本目として『一月の声に歓びを刻め』を完成させ、ウディネ・ファーイースト映画祭、米アジアン・ワールド映画祭のコンペティション部門に選出された。確かな演出力で俳優の新しい面を引き出しながら、人間の心の痛みや再生、現代が抱える社会問題を独特の映像美で立ち上らせる作風が高く評価されている。その他の作品に、『しあわせのパン』(12)、『ぶどうのなみだ』(14) 、『繕い裁つ人』(15)、『少女』(16)、『ビブリア古書堂の事件手帖』(18)、セミドキュメンタリー映画『東京組曲 2020』(23)などがある。

作品情報
映画『男ともだち』

京都に暮らす29歳のイラストレーター・神名。仕事もプライベートも順調に見えるが、実は描きたいものを見失い、惰性と不毛な恋愛に逃げる日々を送っている。ある日突然、神名の元に大学時代の先輩・ハセオから電話が入り7年ぶりに再会、あの頃も今も変わらない二人だけの温度で接してくれる“男ともだち”と過ごす3つの夜が、彼女の人生を大きく動かしていく。

監督:三島有紀子

原作:千早茜「男ともだち」(文春文庫)

出演:松岡茉優、成田凌、井上祐貴、中島歩、咲妃みゆ、三浦貴大、辻󠄀凪子、中山求一郎、比喩根(chilldspot)、余貴美子、池畑慎之介

配給:ハピネットファントム・スタジオ

©2026『男ともだち』製作委員会

公開中

公式サイト otokotomodachi

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『哀れなるものたち』『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
映画が大好きな業界の人たちと語り合う「映画は愛よ!!」記事一覧はこちら