Nov 07, 2026 interview

三島有紀子 監督が語る 松岡茉優と成田凌が体現した、想像を超えるふたりの時間 映画『男ともだち』

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役者がその場で感じて動けるような環境をつくる

池ノ辺 松岡茉優さんと成田凌さんの演技はどうでしたか。

三島 素晴らしかったです。それぞれが綿密な計算をして、なおかつその現場で感じたことをやってくれたと思います。私は、もともとロケの場所を選ぶときには、「ここに来たら生まれる何か」というものがあると信じてその場所を選んでいます。この場所を感じることで生まれる動き(動線)、位置関係、芝居、感情、そうしたものが見えてきたらロケ場所として決めることが多いんです。そうした環境をつくることが私の演出のほとんどだと言ってもいいくらいです。俳優さんたちが事前に構築したものをその場に持ってきてくださり、その場で感じることをそのままやっていただければ、きっとそれは生々しいリアルなやりとりになるだろうと想像していました。


池ノ辺 実際そうなったわけですね。

三島 そうですね。最初にふたりを撮ったのは鴨川の川べりだったんですけど、彼らがどんなふうに歩くのかなと見ていたら、きっと大学時代にこんな距離感でこんなやりとりをして過ごしていたんだろうな、というのが見えてきたんです。少し、過去に過ごした街も対岸に見えていますし、そんなこともお伝えしたら、まさに、このふたりが神名とハセオを体現してくれたという感覚でした。

池ノ辺 監督は役者さんに対してはどんな演出をされるんですか。

三島 撮影より前に、それぞれとじっくりゆっくり話す時間をまず作ります。お互いのことや役のことなどです。今作は、撮影の朝にも松岡さん成田さんそれぞれ別々に、話すようにしました。そこで、それぞれがやろうとしていることをお聞きして、自分の考える大きな方向や狙っていることをお伝えします。現場では、具体的に「こうしてください」というのはなるべく言わないようにしています。もちろん大きな流れとしての動きを伝えることはあります。でもどちらかといえば、先ほどお話ししたように、この美術をここに置いて、この持道具はそこに置いて、そういう環境から導けるものがあると考えているんです。ですから皆さんにはなるべく早く現場に来てもらいます。私たちが考えたロケ場所で、飾った美術を見てもらえれば、それがどういう人物だと考えていて、このシーンをどういうふうに撮りたいと思っているのかは伝わるのではないかなと思うんです。

ただ、人によっては細かく説明したり理屈を言ってもらった方が安心するというタイプの方もいらっしゃるので、そういう時には細かく理屈を含めてお伝えするようにしています。負けず嫌いの人の場合には、褒めると安心してしまうこともあるので、褒めないようにしてみたり(笑)。そこはもう本当にいろんな方がいらっしゃって、人それぞれなんです。そして一番いいお芝居が出る、いい表情が出る、そういうタイミングをこちらはずっと探っているという感じです。今、本番に行った方がいいとか行かない方がいいとかね。それで今だと思った時には、撮影部の大塚亮さんや照明部の藤井勇さん、録音の浦田和治さんたちをチラチラっと見て「今、行ってもいい?」みたいな目配せを送ってカメラを回すわけです。

池ノ辺 それは、すごい。タイミングを見て感じ取って、今だとなったら「行こうぜ」となるわけですね。

三島 それが一番の理想です。



池ノ辺 今回、松岡さんも成田さんもきっと理想の形だったんですね。

三島 自分としては、理想以上でした。ふたりのセッションの中で変化していくプロセスが、撮りながら見えていて、これはまさに自分が想像していた以上のものが撮れていると、そういう感覚がありました

池ノ辺 松岡さんは、演技に関していろいろな提案をくれる人だと聞いたことがあるんですが、今回はどうでしたか。安心して監督にお任せしていた感じですか。

三島 「今回は、監督が神名をつかんでいるから信じています」と言ってくださっていましたが、そもそも私自身が松岡さんのこれまでの作品を拝見して、彼女を信用していました。ただ、その上で、「このシーンはこういうふうに撮りたい」と、ふたりで話はしました。例えば、イラストレーターである神名のもとに、「これと似たようなテイストで描いて」という依頼とともに自分だったら絶対描かないような絵が送られてくるシーンがあるんです。最初、松岡さんは私と違うプランを持っていました。そこで私は「ここで神名は、あの絵を見た瞬間に体が凍りつくような冷たい感覚に陥る。でも、そこからでも描かなきゃいけない、というところまで自分を持っていく。その長くて残酷なプロセスを観る人と共有してほしい」という話をしたところ、考えてくださってああいうシーンになったんです。ただし「それを全部本当にやるなら、映画1本終わると思う」とおっしゃられていました(笑)。

池ノ辺 確かにあのシーンは印象深いです。



三島 「その長いプロセスを短縮した形なら、描き始めるまでのすべての感情を一連で見せることはできます」と言ってくれたので、「じゃあそれでいきましょう」となったんです。毎日、そんなふうに松岡さんといろんな話をして現場に行くという感じでした

池ノ辺 成田さんとはどうでしたか。

三島 成田さんともいろいろ話しましたし、ご一緒に映画を作るのは二度目ですからとても頼りにしていました。どれくらいの温度感でいくのか、どんな距離感なのかというところから始まって、ひとつのセリフの裏側の意味だったり、ふたりで観るビデオは何の映画にしようか、という作品選びのシーンでハセオの気持ちとしては、どうしてそんなことを言うのか、そんなことも話しました。次に何を観ようかと選んでいた時の神名の様子を見て「ハッピーな映画を観ようか」というのは彼が見つけてくれたセリフなんです。