「奇跡」と「魔法」が紡ぎ出す優しい映画
池ノ辺 この作品では先ほどもちょっと出てきましたが、「奇跡」というのも一つのポイントですよね。監督は、最近そういう奇跡の経験はありましたか。
酒井 私は結構晴れ女なんですけど、このシーンは雨が降った方がいいな、という時には雨が降ってくれたりするんです。今回の『時給三〇〇円の死神』では、本当は晴れのシーンだったんですけれども、雨が降ったことによってより奥深いシーンになったところがあります。あの、グラウンドでの佐倉くんと花森さんと、小澤征悦さん演じる雨野さんのシーン、あそこで奇跡的に雨が‥‥。
池ノ辺 あれは本物の雨だったんですね。
酒井 そうなんです。それで、この雨を生かしてこのシーンを撮影しましょうっていう話になりました。
池ノ辺 それは奇跡だ。
酒井 もう一つあります。これは別作品なんですけど、「虹なんて出ないよね」っていうセリフの時に、本当に虹が出てしまったっていうことがありました (笑)。それはびっくりしました。

池ノ辺 そういう監督の自然へのまなざしなどが素敵な表現になり、映画という形になっているわけですが、監督にとって、映画って何ですか。
酒井 私にとって映画は、魔法です。
池ノ辺 魔法。
酒井 映画を観て明るい気持ちになったり、泣いてしまうような気持ちになったり、そんなふうに人の心を動かすというのは魔法の一つのような気がしてますし、そう思いたい。自分自身が映画を観て魔法にかかることももちろんありますけど、自分も人の心を動かすような魔法を使いたい、自分とみんなで作った映画がそうなったらいいなと思っています。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
写真 / 岡本英理
監督
1991年生まれ、長野県出身。京都造形芸術大学卒。独自の感性と豊富なアイディアで紡ぐ作風が高く評価されている。2017年、『はらはらなのか。』で商業映画監督デビュー。際立つ創造性を発揮したクリエイターを選出する「映像作家100人2020」にも選ばれた。その後、ドラマ「美しい彼」シリーズ(21、23)が大きな話題を呼び、2023年に『劇場版 美しい彼〜eternal〜』として映画化されスマッシュヒットを記録。以降も『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』(23)、『恋を知らない僕たちは』(24)、『チャチャ』(24)、『ストロベリームーン 余命半年の恋』(25)など話題作を立て続けに手掛ける。また、「明日、私は誰かのカノジョ」(22)、「小さい頃は、神様がいて」(25)などのテレビドラマや、なにわ男子、優里、Nissy、きゃりーぱみゅぱみゅ、などの人気アーティストのミュージックビデオも監督。大衆性を意識したエンターテインメント作品を志向し、多方面での活躍が注目されている。

不祥事を起こした父親の逮捕、両親の離婚など不幸続きの人生に絶望していた大学生の佐倉真はある日、同級生の花森雪希に〈死神〉のアルバイトに誘われる。雇用期間は六カ月間、依頼内容は郵便受けに投函され、交通費はなし。そして、時給は…たったの三〇〇円。嘘みたいで理不尽なその仕事は、この世をさまよう死者の心残りに寄り添い、願いを果たす手伝いをし、あの世へ送り出すことだった。死神のバディとして花森とともに様々な死者たちとの出会いを通じて、佐倉の止まっていた人生は少しずつ動き始めたのだったが…。
監督:酒井麻衣
原作:藤まる「時給三〇〇円の死神」(双葉文庫)
出演:西畑大吾、福本莉子、渋谷凪咲、齋藤潤、泉谷星奈、佐津川愛美、山口馬木也、小澤征悦
製作幹事・配給:ギャガ/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
Ⓒ2026藤まる/双葉社・「時給三〇〇円の死神」製作委員会
公開中
公式サイト jikyu-300movie