Aug 27, 2026 interview

中野量太 監督が語る 10年ぶりの完全オリジナル脚本で挑む“罪と赦し” 『私はあなたを知らない、』

A A
SHARE

かっこ悪い夕平と凜とした祖母

池ノ辺 坂口健太郎さんは素晴らしかったですね。監督はどう演出をされたんですか。

中野 「今回はかっこいい坂口健太郎は撮りませんよ」とずっと言っていました (笑)。もともと坂口さんには、もちろんかっこいいんだけれど何か寂しい感じとか、憂いを持った感じというのを見ていたんです。それが今回の夕平にはぴったりだと思って、そこを前に出してもらおうと思いました。それにこれまで見たことのない坂口健太郎を主演で撮りたいという思いもありました。監督なんて贅沢なもんですよね (笑)。

池ノ辺 確かに贅沢ですね (笑)。

中野 それで、今回は、コミュニケーションが下手で、かっこよくもなくて、その辺にいるような感じの人をやってくださいと坂口さんに話をして、彼もそこは理解してやってくれました。でもそもそもかっこいい人ですから、そういう風に見ることが難しかったんですけど、ある時、紗月の実家に行ってお母さんと外で喋っていた時に、朝子から呼ばれて走っていくシーンで、その走り方がすごくかっこ悪かったんです (笑)。うわぁ、本当にちゃんとかっこ悪い、いいな、と思ったのを覚えています。

池ノ辺 たしかに、坂口さんって素敵な感じの役が多いですから、かっこ悪いというよりはとても人間らしさを感じましたね。紗月の母で朝子の祖母役の原田美枝子さんも素敵でしたね。

中野 原田さんにオファーを出すときは、すごく緊張したんです。

池ノ辺 監督が緊張したんですか。

中野 そりゃあ緊張しますよ。でもオファーを出したら「いいですよ」と受けてくださって、それで最初にお会いした時には脚本が面白いと言ってくださったんです。最後の手紙の言葉がとてもいい、救われる、と。“凜としてちょっと強い祖母” というのをまさしく体現してくれて、すごくやりやすかったです。

池ノ辺 人だけじゃなくて、何気ない日常の風景も良かったです。小物とか一つひとつも可愛くて、でもその時代に合わせた生活感もあって。

中野 もちろん、そこに生きているだからリアリティがないとダメなので、そういうところはこだわっています。

池ノ辺 あのパン切り包丁も、こだわりの一品だったんですか?

中野 「僕はこんな素晴らしいものをなぜ27年間も知らずに生きてきたんだろう」という夕平の気持ちは、まさに僕の実体験から来た言葉です (笑)。

池ノ辺 パン切り包丁を知ったきっかけは、彼女からもらったとかですか。

中野 自分で買いました。高級パンが流行っていたときです (笑)。