- 小松
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『おくりびと』は松竹とTBSによる作品なんですけど、TBSの方はテレビ局だから、予告編をコメディっぽく、面白さを前面にだしたがったんですね。
確かにコメディーじゃないけど、思わず笑ってしまうような雰囲気もあるんですよ。
ただ、僕自身は、この映画は本当に心に染みいるドラマだなと感じていて、笑いはギリギリに抑えて、人間ドラマが伝わるような予告編を割と自由に作れたんです。
- 池ノ辺
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完成から公開までちょっと時間があったんだけど、その間にモントリオール国際映画祭で賞をとって、日本でも海外でもいろいろ賞を取り始めて、作品の評価がうなぎ上りにあがっていったでしょう。
私が小松さんの予告編で覚えているのは、山崎努さん演じる葬儀社の社長が白子を食べながら語るところ。
あの後、あの白子を食べたいといろんなところに行って探しましたよ、私。
- 小松
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生きるってことは罪なことだ、みたいなことを言うんですよね。
どれだけ、見た人に伝わったかどうかはわからないですけど、あの予告編は納棺師という、これまでみんなにはあまり知られていない仕事の真髄を伝えようとした。
それは俳優の本木雅弘さんが自ら企画を立ててやりたかったことで、その発想と実行力はすごいなと思いましたね。
- 池ノ辺
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ついには第81回アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされて、「これは現地に行かなきゃいけませんね」と松竹さんに私、言ったのよ。
それでツアー組みますとなって、小松さんと私も授賞式に行ったんですよね。
世紀の瞬間に。
- 小松
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もちろん会場の中には入れなかったけど、近くのホテルの一室に関係者みんなで集まって、中継を見ていた。
- 池ノ辺
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まさか取るとは思っていなかったから、気楽な感じだったんだけど、まさかの受賞で、そのあと、ロサンゼルスに住んでいる桃井かおりさんは来られるし、いろんな人が集まってきて、みんなで喜んだというのがいい思い出です。
- 小松
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よくアカデミー賞、取れたなあ。
今、思っても、不思議ですよね。
- 池ノ辺
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何かが起こるということの流れはそういうことなんでしょうね。
あと、なにかしら、時代の空気にピタッとはまったんでしょうね。
ヒットが生まれるというのはそういうことですよね。
- 小松
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僕は海外の人にとって、とても珍しかったんだと思う。
日本のお葬式というシチュエーションそのものもが。
- 池ノ辺
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ただ外国の評価を見ると、本木雅弘さんと広末涼子さんの演じる若い夫婦の生き方がとても評価されたというのもあったみたい。
一度、キャリアがダメになって、30代で田舎に帰って、その後の人生を模索するという。
そこの演技ができていて、共感したという評価もよく見ました。
- 小松
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その意味で、今年、大ヒットしたケン・ローチ監督の『私はダニエル・ブレイク』も同じ流れじゃないかな。
心臓病を患った大工さんが、福祉の医療制度を利用したいのに認められず、心臓が悪いのに、再就職の訓練や就活をしなくてはならなくなる。
イギリスの福祉が民間に丸投げになって、制度に合わない人が見捨てられてしまうという。
内容は地味だけど、やっぱり口コミで大ヒットになったでしょう。
- 池ノ辺
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それもやっぱり、小松さんの作った予告編がよかったんですよ。
絶対に。
(文:金原由佳 / 写真:岡本英理)
映画『僕のワンダフル・ライフ』
犬を飼うことのいちばんの幸せ、それは犬たちがくれる無償の愛。ゴールデン・レトリバーの子犬ベイリーが、その愛を捧げた相手は、自分の命を救ってくれた、イーサン少年。1人と1匹は喜びも悲しみも分かち合い、固い絆で結ばれていく。だが、犬の寿命は人間よりうんと短い。ついに、旅立つ日がきてしまう──はずが、ベイリーの愛は不死身だった! イーサンに会いたい一心で、何度も生まれ変わってきたのだ。けれども、そう簡単にはイーサンと遭遇できない。ようやく3度目の生まれ変わりでイーサンとの再会を果たしたベイリーは、自らに与えられた“重要な使命”に気付くのだが──。 原作は、ベストセラー作家のW・ブルース・キャメロンが、愛犬を亡くした試練を乗り越えようとしていた恋人のために書いた小説。犬好きはもちろん、人間と動物の不思議な縁に心を揺さぶられた人たちから熱狂的な支持を集め、ニューヨーク・タイムズのベストセラー第1位に輝いた。
監督:ラッセ・ハルストレム 『HACHI 約束の犬』『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』『ギルバート・グレイプ』 出演:ジョシュ・ギャッド(声)、デニス・クエイド、ペギー・リプトン、K・J・アパ、ブリット・ロバートソン 原作:「野良犬トビーの愛すべき転生」W・ブルース・キャメロン著(新潮文庫)
配給:東宝東和
映画『僕のワンダフル・ライフ』9月29日公開
公式サイト http://boku-wonderful.jp
PROFILE
■小松敏和(こまつ・としかず)
株式会社バカ・ザ・バッカ 創立メンバー
1952年生まれ。1976年、株式会社武市プロダクション入社。予告編デビュー作は「ジャンクマン」(82年)。1987年、株式会社バカ・ザ・バッカ設立に参加。「南極物語」(83年)で予告編コンクール予告編大賞。「死霊のはらわた」(85年)、「東京国際ファンタスティック映画祭」(85年〜05年)、「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」(89年)で予告編コンクール予告編大賞。「ムトゥ/踊るマハラジャ」(98年)、「アメリ」(01年)、「おくりびと」(08年)、「冷たい熱帯魚」(11年)など、40年間を通して、約1500本の予告編を制作。2017年6月、株式会社バカ・ザ・バッカを定年退職。