May 28, 2019 column

トニー賞直前!注目ミュージカルBest3レビュー

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大ヒット映画の舞台化『トッツィー』

次に紹介する『トッツィー』は、1982年に大ヒットしたコメディ映画のミュージカル版。主演男優、助演女優、オリジナル楽曲、衣装デザインなど11部門にノミネートされている。ストーリーは短気な男優である主人公マイケルが、演技への想いと自我の強さから、ニューヨークの舞台ディレクターと喧嘩をしてしまうところから始まる。そんな性格が原因で業界から嫌われて仕事口を失ってしまった彼は、女性に変装し、女優としてオーディションに行くことを思いつく。その結果「彼は絶対に雇わない」と宣言していた演出家のミュージカルに、看護婦役として出演することが決まる。女性になりすましているのだから、正体がばれないように謙虚に振る舞うのだが、そうすると必然、彼が発する演技への思いや作品への意見は、慎重で分別のある伝え方になり、おもしろいように採用されるようになる。そうこうしているうちに駄作だったミュージカルは、たちまちニーヨークで評判となる。ブロードウェイはその才能を讃え、彼は一躍有名女優となる。だが試験公演を続ける間にマイケルは、一緒に演じる女優に恋をしてしまう。彼女は彼に同性としていろいろなことを打ち明け、素晴らしい親友だと思っているのだが…。

photo by Matthew Murphy

耳に残るメロディーに、同じくらい耳に残る歌詞が乗っかり、見事に合体している。ジェスチャーや台詞はもとより、歌詞にまで冗談が散りばめられていて終始笑いが絶えることはない。女装を知っているのは、本人とルームメートのジェフだけだが、突然の訪問者に、素早く彼が着替えたり、あわててジェフがカツラを片付けたりするなど、二人の間の取り方が絶妙で、ステージ上の狭いニューヨークの部屋をあっちに行ったりこっちに来たりする動作に、笑い転げてしまう。

主演賞にノミネートされたサンティノ・フォンタナが、低く鋭利な歌声のマイケルと、フルートのようなソプラノを出す女優との間を、さりげなく行ったり来たりするのも見事だ。このサンティノ・フォンタナは、2010年、スカーレット・ヨハンソンの相手役として『橋からの眺め』の試験公演中に、喧嘩のシーンで舞台上のテーブルで強く頭を打って意識を失い、結局は同作品に戻れなかった。それについて今年1月、彼にインタビューした時、次のように答えてくれた。「事故の後、台本を覚えるのは一苦労でした。長い間リハビリと記憶訓練をしました。自分の頭が自分の思い通りにならないのは、辛いことです。でも、あの体験のおかげで自分は変わったと思います。それまでの僕にとっては有名になることや認められることが、とても重要でした。でもあの時不安でいっぱいだった僕は、いろんな人に支えられ、人との関係や心の触れ合いの大切さが、身に沁みる毎日を過ごしました。だから今、家族や友達、そして観客一人一人の心に近づくことが、僕にとって何よりも大切なことなのです」と。

photo by Matthew Murphy 2019

『プリティ・ウーマン』や『ゴースト』 など大ヒットした映画を舞台化すると、客の呼び込みが望める。だが一方、元の映画と比較されがちで、高い評価を得るのも難しい。しかしミュージカル『トッツィー』はそれに成功したいい例となるだろう。理屈抜きで楽しめるので、ミュージカルを観たことがない人にもお薦めできる。