では、『ドラマなふたり』の何が人々を熱狂させるほど「面白い」のか? 大きく分けて、3点あると個人的には分析している。まずは《設定》だ。「結婚式の1週間前に新郎が新婦のとんでもない秘密を知ってしまい、幸せだったカップルに亀裂が生じる」というつくりは、第一にわかりやすく、詳しい内容や展開が気になるもの。逃げたくなっても本番が刻一刻と迫ってくるある種のタイムリミットサスペンス/スリラーの要素も含んでおり、かつ重要なのはただのコメディではなく頭に「ブラック」が付くことだ。ラブコメ/ロマコメが冬の時代に入った一因には、現実がシリアスになりすぎたからという時代の変化もある。まさに「お花畑」的な牧歌的・楽観的な雰囲気は市民が生きるいまと違いすぎて、もう笑えないのだ。「恋愛」や「結婚」といった“近い”題材ならばなおさら、リアリティとまではいかなくとも相応の接地面の多さ――現代に対する解釈一致感は必要となる。結婚が幸せの代名詞とされてきた時代も去り、どこか冷笑的に見ている人も増えたであろう昨今、結婚をある種の契約として捉え、毒っ気をもって描き出す部分は的確にトレンドを押さえているといっていい。恋愛に消極的な割合が多いとされる20~30代を主人公/メインターゲットとするならなおさらだ。ある意味『ANORA/アノーラ』に近い方法論ともいえるが、結婚に対する相反する「夢を見たい」理想と「夢なんてない」現実の双方を見事にカバーしたシチュエーションといえるだろう。



次に《メンバー》。注目したいのは、監督・脚本を担当したクリストファー・ボルグリだ。承認欲求おばけとなり、同情票を集めようと自分の顔を醜く変異させる女性の暴走を描いた『シック・オブ・マイセルフ』(2023)、ある日突然人々の夢に現れるようになったことから“時の人”として祭り上げられた冴えない教授の“バズ”と“ハブ”を悲哀を交えて描く『ドリーム・シナリオ』(2023)など、日常が崩壊する風刺劇の名手として知られる彼が「結婚」を描く以上、刺激的な物語になるのは規定事項といっていい。かつ、A24というブランドへの信頼感。作品によって好き嫌いはあるだろうが、A24が送り出す作品はどれも攻めたものばかり。安パイとは遠い両者が『ドリーム・シナリオ』に続いて組んだとなれば(アリ・アスターも引き続き製作に名を連ねている)、「何か仕掛けてくるに違いない」と期待も膨らむというもの。
その体現者となるのが、ゼンデイヤとロバート・パティンソンだ。共に『オデュッセイア』(2026)や『DUNE』シリーズに出演しており、スパイダーマンとバットマンというヒーロー映画でも存在感を発揮している両者だが、バジェットの大小に関わらず作家性の強い作品で輝く役者でもある(ゼンデイヤは「ユーフォリア/EUPHORIA」、パティンソンは『グッド・タイム』(2017)『ライトハウス』(2019),『PRIMETIME(原題)』(2026)ほかA24関連作に多く出演)。本作はもうじき妻となる相手の秘密を知ったことで疑心暗鬼にかられ、情緒不安定になっていく物語であり、パティンソンの“壊れっぷり”とゼンデイヤの“怖さ”が重要なキーとなる。かつ、ガチガチにキャラクターを作るというよりも振れ幅があるように設計し、2人が揺れるさまを見せつつ絶妙に「ありそう」な具合を追求しなければならないが、こうした難しい役どころでありながら、どの角度から見ても完璧なハマり具合だ。『リコリス・ピザ』で俳優としても存在感を発揮したアラナ・ハイムも、秘密を知って態度を硬化させる友人をなんとも生々しく演じ切っている。
