Nov 28, 2020 column

『劇場版 鬼滅の刃』という事件は、いつかアニメを見る人たちの革命になるのかも知れない

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さんざん言われていることだが大きな転換となったのはアニメ化で、そこから単行本が一気に売れ始めた。連載で読んでいたファンという1段目ロケットから、アニメ化で生まれたファンという2段目ロケットに着火した。これがアニメ好きのタレントなどが話題にすることで広がるという3段目に着火し、それを受けて今度はアニメやコミックファンというわけではない一般層という最大の4段目に着火した。このあたりは10年ほど前に突然『ONE PIECE』人気に火がついたのと近い現象だ。とはいえ現在はその規模すら超えてしまっているので想定外だった“5段目ロケット”にも着火したと言えるが、その正体がわからない。例によってステマだ何だと言っている人もいるが、それでここまでになるならコンテンツホルダーは誰も苦労しない。

タレントなどが話題にし始めたときにアニメ版を多くの配信サービスで即座に見ることが出来たというのも大きい。再放送を待ったり、録画していた人を捜したり、レンタル屋でビデオが返ってくるのを待っていた時代とは大きく違う。原作コミックがその時点で20巻ほどだったというのも追いかけやすい長さだった。前記した1段目の着火から現時点までの各盛り上がりに受け手に対して途切れたりストレスになる要素が無く、全てがスーッとシームレスに繋がり、「シリーズ全体の途中のエピソードだけの劇場版」であることの不利さは薄れた気がする。

ストーリーやキャラクターといった原作レベルでの面白さ、アニメ化における映像やキャスト、音楽といった作品そのものの魅力の数々はもちろん。コロナ禍で「何か面白いアニメでもあれば見るか」という人が多かったという要因もあるのだろう。コロナで疲れ切り、先行きに不安なものを感じ始めている心に、逆境の中でもキャラクターたちが「~だ!!」と意志の持ちようの指針を力強く言い切ってくれる心地よさ。それが心に響いたという人も多い。

余談ながら書けば、僕がTVシリーズが始まったときに「おお!」と思ったのは剣劇描写だった。“呼吸”や剣劇で描かれる水や炎のエフェクトのまるで浮世絵のような線と色の使い方の面白さと美しさはアニメ化ならではの付加された効果だった。そして、かなり以前から気になっていることなのだが、アニメやコミックでの刀(日本刀)の描かれ方には柄がやたら短いであるとか全体が短いであるとか構え方がおかしいであるとか変な物を目にすることも多い。しかし『鬼滅の刃』ではそれがない。このへんの描写(アクション含む)は『Fate』シリーズや『活撃 刀剣乱舞』といった剣劇アクションを多く手がけてきた制作会社ufotable(ユーフォーテーブル)の知識と経験の蓄積を感じさせられた部分だった。