Nov 28, 2020 column

『劇場版 鬼滅の刃』という事件は、いつかアニメを見る人たちの革命になるのかも知れない

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とはいえ今の超ヒット現象はそういった数々のそれぞれだけで説明がつく状況ではないのは明らかだ。考えれば考えるほど不思議で面白く、この出来事自体にも興味を惹かれるほどの現象だ。多くの「ヒットの理由は?」という話をメディアで目にするようになり、様々な分野や視点からの分析はそれぞれ面白く見聞きしているが、とはいえアニメ識者の人の考察であってもその結論にはやはり「もはやそれだけで説明がつく現象ではない」ことはわかっておられる。
(ましてアニメ門外漢の人らによる分析となると入口の段階で認識がズレていたりするのであまり参考にならない)

大ヒットとなった作品には「たまたま」「“何か”のいくつものタイミングが合った」というものも多く、その「たまたま」や“何か”の正体が結局説明がつかないものが多い。それより1年、いや数ヶ月違っていただけでもそうはならなかったと思われることだってあるし、逆に数ヶ月違っていればもっと大きな反応があったのではと思わされた作品だってある。だからこそのあらゆる意味において異例であり予想外であり規格外の超ヒットなのだし社会現象と呼ばれるものなのだが、言い換えればその「たまたま」や“何か”という要素こそが社会現象という形になって現れた“今の社会”の正体ではないのか。いつかそれが何であったのかがハッキリした時、2020年とは何だったのかも明確化するのかもしれない。

もちろんこの超ヒットはアニメにおけるプラス面も大きい。これがもたらす最大の変化や功績があるとすれば作品単体でのビジネス的な経済効果やアニメ映画興行についてよりも、日本のアニメをあらためて社会の大多数に知らしめたことになるのではないか。これは継続的にいくつもの作品にも影響をもたらし続け裾野を拡げてゆくことに繋がる。

「日本のアニメはスゴい」というのは知っていて海外でも人気作があるということは知っていても、実際に作品そのものを目にしている人は限られる。アニメを見る人は20年前、30年前よりかははるかに増え、もはや珍しいわけでも特別な存在でもなくなっているが、それでもまだ多くの人が目を向けるアニメはそのジャンルや題材も含めて限られる。そういう人たちに“その他のアニメ”。それも少年ジャンプマンガ原作作品のアニメ化において「こういう作品もある」「このクオリティなのだ」ということを知らしめたことはあまりに大きい。それがどういうものかを具体的に目の当たりにさせた。

コンテンツ市場的なことへの影響や、コロナで危機的状況になっていた映画興行への福音といった事は大きく語られるが、僕はこの発見を多くの人にもたらしたことが“この先”のアニメとアニメ映画にどのような影響を残していくのかと興味を持っている。
同作の超ヒットに対しいま言われている“社会現象”というのはブームという意味においてだ。だがもしその影響が本当に拡がっていったなら、後にその言葉は「あのときにアニメに対する社会認識の革命が起こった」という意味で使われることとなるのではないか。

文 / 岡野勇(オタク放送作家)

作品情報
劇場版「鬼滅の刃」無限列車編

監督:外崎春雄

原作:吾峠呼世晴

声の出演:花江夏樹、鬼頭明里、下野紘、松岡禎丞、日野聡、平川大輔

アニメーション制作:ufotable

配給:東宝・アニプレックス

(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

2020年10月16日公開

公式サイト:https://kimetsu.com/anime/