革新的で、オリジナルなコンテンツを常に配信することに力を注いできたApple TV。これまで、作品によって出来にばらつきはあったものの、今年2026年は新旧ドラマともにかなり充実している。量よりも質を重視したドラマの面白さは少しずつ視聴者を引きつけ、エンタメ業界に新しい才能を送り出し続けている。このコラムでは、第78回エミー賞で多数のノミネートと受賞を果たしたApple TVの注目の2作品「ウィドウズ・ベイ「プルリブス」に注目。大ヒットしているコメディ「ウィドウズ・ベイ」は、主要キャストを含む19件のノミネートのうち14賞を受賞するという快挙を成し遂げた。日本生まれのヒロ・ムライ監督の手腕が注目されただけでなく。その音楽チームの評価は特に高い。このコラムでは、音楽監督賞 (音楽監修を対象とするMusic Supervision部門)を受賞したミュージック・スーパーバイザーのトーコ・ナガタさんに独占インタビュー。





笑いとホラーの味付けが絶妙な「ウィドウズ・ベイ」
舞台は涼しげな港町、灯台の光と霧がたちこめる米大西洋岸の北東部ニューイングランド。「この島に生まれた者は、島から出ることはできない」という、米ケープコッドを想像させる美しい島には、身の毛がよだつ恐ろしい言い伝えがあった。主人公は、この小さな島の陽気な町長トム。古くておどろおどろした伝説を信じてやまない住民を説得し、なんとか観光ブームにのせて、島を活性化しようと意気込んでいた。しかし、NYタイムズの記者を招いて、いそいそと島の魅力を宣伝するトムに、住民は非協力的。呪われた島であるというレッテルを信じないトムは、幽霊が出るという、島一番のビクトリアンスタイルの古いホテルに一泊してサバイバルしてみせると、住民との賭けに出る。
しかし、夜になると、ホテルのオーナーまでもがそそくさと退散。一人でホテルに宿泊することになったトムは、地下室など、呪われているという場所を点検し、住民の挑戦を受けて立つのだった。ホテル中の点検をすませて戻ると、閉じたはずの寝室の窓が開いている。さらには、部屋の外で物音がする。部屋から出ると、もう一人の宿泊客が何気ない様子で挨拶する。トムはほっとし、ほかにゲストがいることを知らされていなかったと、その旅人となごやかに晩酌することになるのだった。
このドラマを監督したのが、日本出身のヒロ・ムライ氏。チャイルディッシュ・ガンビーノの「This Is America」やカルト(Cults)の「High Road」など、センセーショナルなミュージックビデオを監督したムライ氏は、テレビドラマ「Mr. & Mrs. スミス」などでも、その独特のビジュアルとアクションセンスで才覚を発揮している。「一流シェフのファミリーレストラン」では製作総指揮を務める。「ウィドウズ・ベイ」は小さな島の言い伝え、現代とはかけ離れた奇怪な出来事が島の自然と同居し、変わり者ばかりの住民の運命が綴られる。
もちろん、そのシリアスな内容の中で、笑いをもたらしてくれるのは役者の演技。今回2つの主演男優賞を受賞 (もう一つはNetflix「The Beast in Me」のリミテッド/アンソロジーシリーズ/テレビ映画部門の主演男優賞)したマシュー・リースの演技はダントツで、町長の真剣でありながらこっけいな演技がドラマのトーンを形作り、見る者を離さない。コメディ部門をほぼ制覇した中で、助演男優賞を受賞した男優スティーブン・ルートは映画「ゲットアウト」やHBOドラマ「バリー」でもおなじみのこれまた個性派俳優。助演女優賞を受賞した女優ケイト・オフリンは島の町長とのあうんの呼吸で、笑いとホラーの間を行き来する名演を見せている。オフリンは英国出身でマイク・リーの「ハッピー・ゴー・ラッキー」にも出演。今秋は同監督の新作「Tender Loving Care」にも出演し、トロント映画祭での映画の評価も上々。ゲスト出演女優賞のベティ・ギルピンはNetflixの「GLOW: ゴージャス・レディ・オブ・レスリング」の演技が好評だったので、見覚えのある人も多いかもしれない。ギルピンは今回のエミー賞で、ドラマ題名の意味、”未亡人の入り江”を象徴する役で絶賛された。このドラマシリーズが19件のノミネート中14賞を受賞した背景には、作品賞、脚本賞で受賞したショーランナー・脚本家ケイティ・ディポルドと彼女とともに製作総指揮を務め、監督賞も受賞したヒロ・ムライ氏のビジョンの一致があったことは間違いない。
先月、ロサンゼルス、カルバーシティでノミネートを祝うApple TVのパーティにも主要キャストとともにクリエイターたちが出席。一足早いハロウィンパーティのような雰囲気の中で、ムライ氏は、ケイティ・ディポルドのドラマの脚本に惚れたこと、コメディとホラーはある意味似通っていて、テンションを高めて、落とし所を定めるような両者のバランスを演出するのがおもしろい作品だったと、きさくに話してくれた。
ムライ氏の今後の企画には、長編映画監督デビュー作として発表されたA24製作の「Bushido」がある。さらに、人気ドラマ「サクセッション」の脚本家・プロデューサーであるウィル・アーベリーとともに、A24とFXが手がけるリミテッドシリーズ「The Marriage Plot」の製作総指揮・監督を務める予定だ。音楽に強いムライ氏とコラボした「ウィドウズ・ベイ」の音楽・音響などの技術部門も高く評価された。
9月5日・6日(米国時間)に先行して行われたエミー賞の授賞式では、「ウィドウズ・ベイ」がキャスティング賞 (コメディシリーズ部門)、撮影賞 (シリーズ30分部門)、プロダクションデザイン賞 (物語番組30分部門)、音響編集賞と音響賞 (いずれもコメディ/ドラマシリーズ30分およびアニメーション部門)、作曲賞(シリーズ部門・オリジナルドラマスコア)を受賞。そして、日本出身のトーコ・ナガタ (Toko Nagata)さんが音楽監督賞を受賞している。





