Aug 12, 2017 interview

『鉄腕アトム』『妖怪人間ベム』『宝島』 アニメ史に燦然と輝く声優・清水マリの足跡

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芝居の世界で学んできたことを後進に還元していきたい

 

平野

ここまでは、60年代、70年代のお話をお伺いしましたが、今、マリさんがどのようなご活動をなさっているのかも気になります。

清水

最近は朗読劇をやっています。この間も、緒方賢一さん(『忍者ハットリくん』獅子丸役など)と一緒に「漫福寄席(まんぷくよせ)」というイベントに出演して、『浦島プー太郞』というオリジナルの朗読劇をやらせていただきました。

平野

どんな内容なんですか?

 

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清水

そのまんま、『浦島太郞』のアレンジですね。緒方さんがプー太郞で、私がカメで。それで、カメをどういうふうに演じたらいいのか悩んでいたら、脚本家が、「カメはアトムでやってください」なんて言うんですよ。私もアトムでいいならなら楽ちんだって、それでやろうってことになって(笑)。

平野

なんて大サービス! ファンは大喜びですね(笑)。

清水

緒方さんも悪ノリして「なんだか聞いていると、カメはアトムだったみたい!」とかアドリブを入れ始めてすごく盛り上がったんですよ。9月にまた朗読劇をやる予定なので、ぜひたくさんの人にお越しいただきたいですね。

平野

そうすると、現在はアニメ声優としての活動よりも、こうした朗読劇の方に力を入れていらっしゃる感じですか?

清水

そうですね。アニメや洋画は、若い人ががんばっているので、もう私のようなお婆さんが出ていく必要もないかなって。でも、これから声優を目指したいって人や、朗読をやりたいってお母さんがたくさんいらっしゃるので、今は、6つくらい掛け持ちで先生みたいなことをやってます。

あと、面白い試みとしては、1985年に俳優の小沢重雄さんが立ち上げた、学校の先生向けの語り・朗読勉強会「みのりの会」を、小沢さんがお亡くなりになった後に引き継ぐ形で指導しています。こちらも、この8月に発表会を行うことになっているんですよ。

平野

精力的に活動なされているんですね!

清水

7月には目の不自由な方向けの朗読会をやることになっているのですが、目の見えない方は、その分、聴覚が鋭敏で、イメージする力も豊かなんですよね。ある意味とても怖いんですが、やっぱりチャレンジしていかないといけないので、こうした活動もどんどん拡げていきたいと思っています。

 

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平野

声優を目指している人への指導も行っているということですが、どうでしょうか? 今の世代の人たちは?

清水

もう20~30年くらい教えているんですが、今の若い子は心がきれいですね。それだけに、この中のほんの一握りしかプロになれないと考えると心が痛みます。何年も一所懸命がんばっている子が、あと一歩で届かなかったりするのは辛いですよ。ほとんど下積みなしに、スルッとデビューしてしまう子もいたりするので、なおさらです。

平野

芸事って、運の要素も大きいですからね……。ちなみにマリさんの授業ではどういったことを教えていらっしゃるのですか?

清水

まずは発声と滑舌といった基本ですね。それができるようになったら、次は心の解放。役者って、悲しいとか、苦しいとか、怖いとか、そういった感情を取りだして、何時でも自由に出し入れできるようにしないといけないんですが、ほとんどの人はそれができません。自分の内面と向き合うのが恥ずかしいみたいで……。でも、これができるようにならないと、役者としては伸びないんですよ。

平野

わかります。ちなみに、これまで清水さんが教えてきた生徒さんで、今、前線で活躍されている方はいらっしゃいますか?

清水

以前、バオバブ学園(現・ビジュアル・スペース俳優養成所)で教えていたころの生徒たちが、今、活躍していますね。例えば、子安武人君(『天空戦記シュラト』夜叉王ガイ役など)なんかは、手塩にかけて育てた弟子の1人。ほかには、間宮くるみちゃん(『とっとこハム太郎』ハム太郎役など)とか。この頃は、声優の勉強と言いつつ、卒業までに何本もお芝居させたりしてたんですが、それが役に立っているのかもしれません(笑)。私も教えていて楽しかったですよ。

平野

そんな風に、今でも精力的に活動できる秘訣を教えてください!

清水

何にでも興味を持つことじゃないですか?子供の頃から、知らない事があるとすぐに首をつっこんで父に呆れられていました(笑)。芝居以外にも、陶芸やったり、俳句やったり……。そんなふうに、常に新しい何かと接するようにすることが、楽しく生きる秘訣だと思います。

 

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構成・文 / 山下達也  撮影 / 吉井明

 

プロフィール

 

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清水マリ(しみずまり)

6月7日、埼玉県生まれ。81プロデュース所属。主な出演作は『鉄腕アトム』(アトム)、『妖怪人間ベム』(ベロ)、『ジェッターマルス』(マルス)、『宝島』(ジム・ホーキンズ)ほか。著書に『鉄腕アトムと共に生きて-声優が語るアニメの世界』がある。

 

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平野文(ひらのふみ)

1955年東京生まれ。子役から深夜放送『走れ!歌謡曲』のDJを経て、’82年テレビアニメ『うる星やつら』のラム役で声優デビュー。アニメや洋画の吹き替え、テレビ『平成教育委員会』の出題ナレーションやリポーター、ドキュメンタリー番組のナレーション等幅広く活躍。’89年築地魚河岸三代目の小川貢一と見合い結婚。著書『お見合い相手は魚河岸のプリンス』はドラマ『魚河岸のプリンセス』(NHK)の原作にも。