Jan 07, 2020 interview

初期にはホラー寄りの構想も!?『パラサイト』舞台裏をポン・ジュノ×ソン・ガンホが語る

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カンヌ国際映画祭のパルムドール(最高賞)やゴールデングローブ賞外国語映画賞など、すでに世界各国で大絶賛を集め、今年のアカデミー賞でも有力の一本といわれている韓国映画『パラサイト 半地下の家族』。道路から半分地下に下がった小さな住居で暮らす4人家族。その長男が裕福な社長の邸宅で家庭教師を始めたことから、信じがたい事態へとなだれ込んでいく。先が読めない展開の映画は数多いが、ここまで予想外の作品は珍しい。『殺人の追憶』(03年)、『グエムル-漢江の怪物-』(06年)、『スノーピアサー』(13年)に続いて、4回目のタッグを組んだポン・ジュノ監督と主演のソン・ガンホに、作品について、そして自身の“原点”や、アカデミー賞への思いなども聞いた。

社長一家がメインの構想もあった

――ささいな出来事から、ジェットコースターのようにとんでもない事態へ発展するのが、ポン・ジュノ作品の魅力です。長編デビュー作『ほえる犬は噛まない』(00年)から、その魅力は変わりませんね。

ジュノ 最初にシナリオを構想した時は意識していませんでしたが、書き終えてみると、『ほえる犬は噛まない』との類似性は感じましたね。日常のささやかな出来事に始まり、それが雪だるま式に膨れ上がっていくストーリーは、私が魅了されるスタイルなんだと改めて実感します。

ガンホ 私は『パラサイト』が、そういう構造とは感じなかったですね。むしろ、“食べていかなければならない”とか、そういう日常から始まるストーリーだと解釈しましたよ。

――半地下に暮らす家族の父親を演じたソン・ガンホさんは、記者会見で「最初は裕福な社長役のほうをオファーされると思った」と話していましたが…。

ガンホ あれは軽いジョーク(笑)。会見を楽しく盛り上げようとしたんです。ただ、この『パラサイト』はどの役もじつに魅力的ですよね。その中で、ギデクという半地下で暮らす父親の役が、私に合っていたんだと思います。

――監督としては、ソン・ガンホさんに社長の役を演じさせ、そちらを主役に物語を考える可能性はなかったのですか?

ジュノ 数年前、最初に構想をした時点で、たしかに裕福な社長の一家をメインにしたストーリーラインも考えました。そうすると視点がまったく反対になるわけです。最終的な作品は半地下の家族の視点がメインになっていますが、家庭教師がやって来る社長一家側のストーリーにする可能性もあり、その場合、家庭教師が、誰だかわからない“侵入者”のような存在になります。

――そうすると、ずいぶん違う映画になったでしょうね。

ジュノ そうなんです。映画はもっとホラーに近いテイストになっていたかもしれません。

会話はあえて“しない”、互いの信頼関係

――ソン・ガンホさんは、4回目のポン・ジュノ作品への出演です。撮影現場などで、言葉に出さなくてもお互いの気持ちを理解し合っているのでは?

ガンホ 実際にあまり多く会話はしませんね。別に“話したくない”わけじゃなく、あえて“しない”んです。私たち演じる側からすると、「どうしてこういう状況なんだろう?」「どうしてこの台詞?」という疑問が浮かびます。あまりあれこれ詳しく説明されると、俳優の領域が侵食されるとか、意図を知ることで本来の演技が制限されることもあるでしょう。自由な表現、創意工夫が壊されてしまう可能性もある。もし監督も演じる立場なら、そう感じるはずです。でも、意識的に話を避けてるわけじゃなく、あえて“しない”感じでしょうか。

ジュノ 撮りながらあれこれ会話するより、速いスピードで撮っていくのが、私の現場なんです。ガンホ先輩や俳優たちに事前に何かを伝えてしまうと、ありきたりの狭いカーペットを敷いて、その上を歩かせるような感じになってしまう。俳優さんならではの感じ方、想像力を、私はワクワクしながら見たいんです。熟練の演技テクニックを持った俳優さんをお招きしているわけですから。もちろん最初のテイクを撮った後、軽く話をすることはありますが、私が書いた台詞を、彼らなりに繰り広げてほしい。そういう信頼関係があるから、ラクな気持ちで撮影を続けられている気がします。

――なるほど。俳優に全幅の信頼をおいているわけですね。

ジュノ この『パラサイト』で、シーンについてしっかり話したのは、2回だけでした。1回目は体育館のシーンで、ここはシナリオ執筆のかなり終盤に私が書き加えた台詞だったからです。もうひとつは、クライマックスですね。大胆で、論議を呼ぶ余地のあるシーンで、シナリオやストーリーボードに書かれている以上に、もう少し果敢に表現してみたらどうか。それを俳優さんたちと話し合いました。その2回です。