Jun 25, 2022 interview

是枝裕和監督が語る『ベイビー・ブローカー』 「生まれない方がよかった命なのか」の問いに答える作品

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クリーニング店を営みながら、裏で赤ん坊の売買をするベイビー・ブローカーのサンヒョン(ソン・ガンホ)とその相棒ドンス(カン・ドンウォン)。彼らは赤ちゃんポストから盗んだ赤ん坊を連れて韓国各地を旅しながら買い手となる養父母を探す。さらに彼らを検挙するために刑事スジン(ぺ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)がその後を追う。赤ちゃんを高く売る、ただそれだけのはずが、彼らの旅は思いもよらない展開に――

本作は、海外の俳優やスタッフたちと創り上げた初の国際共同製作作品『真実』(2019)に続き、自身のオリジナル企画を映画化した是枝裕和監督初の韓国映画。2020年アカデミー賞作品賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』のソン・ガンホをはじめ、『MASTER マスター』(2016)のカン・ドンウォン、是枝監督の作品『空気人形』(2009)に主演したぺ・ドゥナらが参加している。

さらに本作品は第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出され、6月24日には日本でも公開される。是枝監督作品がコンペティション部門に選出されるのは、最高賞のパルムドールを受賞した『万引き家族』(2018)から4年ぶり、6回目となる。なお、同映画祭で本作品は、主演のソン・ガンホが最優秀男優賞を受賞したほか、キリスト教系団体が選ぶエキュメニカル審査員賞に選ばれた。

予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』では、是枝裕和監督に、制作に至る経緯や本作への想いをうかがいました。

是枝裕和監督が語る『ベイビー・ブローカー』 「生まれない方がよかった命なのか」の問いに答える作品

「赤ちゃんポスト」と韓国

池ノ辺 監督、本日はお忙しいところありがとうございます。カンヌ国際映画祭での最優秀男優賞とエキュメニカル審査員賞の受賞、おめでとうございます。

是枝 ありがとうございます。

池ノ辺 早速ですが、今回の作品は、なぜ韓国で制作しようと思ったのですか。

是枝 いろんな経緯があるんですが、ペ・ドゥナさんとは2009年に映画を一本やった後、ちょくちょくお会いして、何かまたやりましょうねという話をしていました。ソン・ガンホさんやカン・ドンウォンさんとも、映画祭やキャンペーンなどいろいろな場所で会うことがあって、そこで何かできないかという話をずっとしてはいたんです。ちょうど『そして父になる』を撮る準備をしているとき、養子縁組制度について調べていく流れの中で熊本県の慈恵病院にある「こうのとりのゆりかご」の存在を知ったのです。

池ノ辺 いわゆる「赤ちゃんポスト」ですね。

是枝 単純にそのことに関心を持って、どういうふうに運営されているのかなどを調べるのに、本を読んだりしていました。またNHKの「クローズアップ現代」にゲストで呼ばれて、そこに預けられた子供たちのことなどを知る機会がありました。

それがベースにはあるんですけれど、韓国でも赤ちゃんポストと同様の存在があって、そこに預けられる赤ちゃんの数が日本よりも圧倒的に多い状況を知り、その中で、なんとなく、ソン・ガンホさんに神父の格好をさせて善人の顔をして預かった赤ん坊を、実は裏で横流しをしているという設定は面白そうだなと思ったのが最初です。

是枝裕和監督が語る『ベイビー・ブローカー』 「生まれない方がよかった命なのか」の問いに答える作品

それで「ゆりかご」という短いプロットを書いて、最初に見せたのがペ・ドゥナさんです。それが2016年。表参道で会って、ぜひやろうとそこで盛り上がって、そしたらプロットを見た彼女に、このサンヒョンの役はソン・ガンホさんでしょ、ドンスはカン・ドンウォンさんでしょと言われて、まさにそのままになりましたね。その辺から徐々に時間をかけて具体的にしていったという感じです。

池ノ辺 2人ともピッタリの役柄でした。いずれも韓国映画で活躍されている人たちですから、彼らが是枝監督の作品に出ると聞いて、驚いたのと同時に嬉しくて。どんなふうになるんだろうととても楽しみにしていました。今回は役者さんだけではなくスタッフも韓国の方たちと聞きましたが、大変なことなどありましたか。

是枝 フランスで撮っても韓国で撮っても、何が大変だったかとよく聞かれるのですが、映画を作ること自体は日本でもどこでも大変なことは大変ですね。半年以上ホテル暮らしでそれは大変といえばそうですが、むしろ、向こうは働き方改革が進んでいるので、休みは多いし1日の撮影時間も短いです。

是枝裕和監督が語る『ベイビー・ブローカー』 「生まれない方がよかった命なのか」の問いに答える作品

池ノ辺 1日8時間くらいですか。

是枝 最長でも12時間くらいでしょうか。しかも1週間で上限が52時間と決まっていてそれは絶対超えませんから、どうやっても週2日以上は休みになります。

池ノ辺 監督は、脚本をいつも練り直していて、撮影当日に脚本が変わるというので有名ですが(笑)、今回もお休みの時には、脚本を見直したりされていたんですか?

是枝 今回は翻訳の時間が必要でしたから、最低でも前の日に出して翻訳してもらって、当日韓国語の直しが渡されるという感じでした。ただ今回はそんなに多くなかったのではないでしょうか。

池ノ辺 それはよかった!(笑)

是枝 もっとも、後半3分の1のソウルに渡ってからの流れは、一度書いてはいたのですが決定稿にはせずに、現場のお芝居とか、何が撮れたかとか、撮影が進んでいった流れでラストを決めますというふうにして、敢えて決めずにおきました。この旅の終着点がどうなるのか決めずに撮影を始めて、撮影中にも何度かリライトをして、見直して、ペ・ドゥナさんやソン・ガンホさんに見せて、どうだろうかと聞いてみる、ということを何度か繰り返したのです。

ラストについては、ソン・ガンホさんの役がいくつかバージョンがあって、書き直すたびに読んでもらってました。そうすると彼が、ここもいいけれどこの間のあれも良かったねと、常に最後の判断は監督に任せますとしながらも、自分はこう思いますと、率直に伝えてくれました。

池ノ辺 それは素敵な雰囲気ですね。

是枝裕和監督が語る『ベイビー・ブローカー』 「生まれない方がよかった命なのか」の問いに答える作品