映画は「生活」。作る者、観る者、そして100年後に観る者まで繋ぐ
池ノ辺 監督はいろいろ下積みを経て、映画が撮れないという時期も経て、いまは「監督に撮ってほしい」という人がたくさんいますね。
藤井 そういう期待には応えたいというのもあっていろいろ撮ってきたんですが、数年前からちょっと苦しくなってきています。売れなかった時代があるからこそ、どんな仕事でも期待には応えたい。売れているうちが花だという思いもあります。そういう中で仕事をしていると、どんどん疲れてきてしまったんです。それでも30代まではそういう生き方で来ましたが、40代からはもう少し自分の中での選択を変えて、作品というものと向き合おうと思っています。それでしばらく映画をお休みしようかと。

池ノ辺 監督が映画をやらないで何をするんですか。
藤井 何をやりましょうかね (笑)。
池ノ辺 その顔は、もう決めているんですね (笑)。いまのままやっていくと、崩れてしまうと思ったわけですか。
藤井 思いましたね。やっぱり時代のスピードが速いので。たとえばAIをどう使っていくかとか、労働の問題とか、30代は走りすぎたゆえに、あまり目を向けなかったことも多かったんです。でも40代になってきて、自分たちの世代が、後進の方々の環境とかギャラとか権利とかを、一番ちゃんと考えて守っていける人にならなくちゃいけないと思ったんです。自分さえよければというのが目立ってしまうと、その先の夢がなくなっちゃう気がするんですよね。その辺り、ちょっと頑張って勉強もしてみようかなと思っています。
池ノ辺 でも、そうしていろいろやって、映画に戻ってくるんですよね。
藤井 次に映画に戻ってくる時が勝負だなとは思っています。その時に「どえらいエナジーで戻ってきたな、この人は」って思ってもらうために、ちょっと修行に出てみようかなというところです。
池ノ辺 それでは、最後の質問です。監督にとって映画とは何ですか。
藤井 いままでに僕は2回は答えていますよね。
池ノ辺 そうです。ちなみに『青春18×2 君へと続く道』(2024)と『ヴィレッジ』(2023)の時には「鏡」とおっしゃっていました。今回はどうですか。
藤井 それは変わらずあると思いますけど、2026年版でいうと、「生活」ですね。

池ノ辺 生きるためってことですか?
藤井 そうではなくて、映画というものが「生活」だと思うんです。生きるためのというよりは、映画の中に、映画を作るということの中にも生活があって、映画を観るということも生活。その生活の中に社会もあるので、むしろ広くなったと思います。作る人間と観る人間と、100年後に観る人間と、この人たちを繋ぐのは僕ら映画人という職業の人たちですけど、これらの視点のどれか1つでも欠けたまま、ものを作ってはいけないという考え方になってきています。いま世の中で起きてることと、作ってる側、演じてる側、観る側がちゃんと1本の線になるように願って、今回は映画をそう定義したいと思います。やっぱり、映画は社会の映し鏡だとは思うんですけど、もう少しだけおじさんになった、ちょっと視野が広がったというところでしょうか(笑)。
池ノ辺 「鏡」であり「生活」なんですね。では、この映画を楽しみにしている人に監督からメッセージをいただけますか。
藤井 この『汝、星のごとく』という映画は、盟友の流星と作り上げた映画なんですけど、「正しさ」というものに苛まれている人や自分の「選択」がはたして正しかったのだろうかと悩んで前に進めない人たちをすごく応援する気持ちで作りました。自分は、絶対的な正しさというものは存在しないと思っていて、その人なりの正しさだったり、誰かを思うための正しさだったり、ということだと思うんです。この映画を観た1人の心でも救えたら、という願いを込めて作りました。たくさんの瀬戸内の美しい風景と俳優の皆さんの素晴らしい演技を楽しんで、映画を観た後に凪良さんの原作にまた戻っていただくという、そんな循環ができるようなつくりになっているはずです。ぜひたくさんの人に観ていただければと思います。よろしくお願いします。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
写真 / 岡本英理
監督
大学卒業後、2010年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』(2014 年)でデビュー。以降『青の帰り道』(18年)、『デイアンドナイト』(19年)、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20年)、『ヤクザと家族 The Family』(21年)、『余命10年』(22年)『ヴィレッジ』(23年)『最後まで行く』(23年)『パレード』『青春18×2 君へと続く道』(24年) など精力的に作品を発表。2019年に公開された『新聞記者』は日本アカデミー賞で最優秀賞3部門含む、6部門受賞をはじめ、映画賞を多数受賞。

美しい海と空が広がる、瀬戸内のとある島。島に転校してきた男子高校生・櫂(横浜流星)と、この島で育った暁海(広瀬すず)。ともに家庭に恵まれず、わだかまりを抱える2人は、互いに唯一の心の支えとなり、恋に落ちる。夢を掴むために上京する櫂と、家族のために島で働く暁海。そんな2人に、無情にも突き付けられるいくつもの“岐路”。15年の大恋愛の末に、2人のくだした決断とは‥‥。
監督:藤井道人
原作:凪良ゆう「汝、星のごとく」(講談社文庫)
出演:横浜流星、広瀬すず、松村北斗、中村アン、濱田岳、尾野真千子、木村佳乃、石田ゆり子、長谷川博己
配給:東宝
©2026「汝、星のごとく」製作委員会 ©凪良ゆう/講談社
公開中
公式サイト nanji.toho-movie