しっかり生きることが豊かな作品につながる
池ノ辺 この映画では、離婚してシングルマザーになった女性が、仕事もして子育てもして、その中でいろいろと葛藤がある。すごくリアルな描写だったと思うんですけど、これは監督の身近に誰かモデルとなるような人がいたんですか。
パルマソン 一人のモデルというよりは、自分が知っている何人かをブレンドしたキャラクターですね。私の作品に登場するキャラクターは、だいたいそうなんです。「10%は自分、20%は友人、30%は姉妹、10%は他の誰か」というように、私が知っている人々のコラージュみたいになっています。今回は、彼女が離婚したことで人間として、親として葛藤しているだけでなく、彼女の仕事でも、ひとりのアーティストとして認められたいともがいている。一つの側面だけでなく、いくつかの側面で葛藤している人間のポートレートを描くのは、自分にとっては興味深いことでした。言葉で説明するのは難しいんですが、映画を観てそこが少しでも伝われば嬉しいですね。

池ノ辺 すごく伝わりました。実際、仕事や家族のことで大変な思いをしている女性は、世の中にたくさんいると思うんですが、彼女たちへのエールにも思えました。
パルマソン 日頃から、人々がどのようにして生活と仕事のバランスを取ろうとしているのかに興味があるんです。たとえばクリエイティブな仕事をしたい人にとって、家事や育児などの “生活” にとらわれ過ぎてしまうと、仕事に十分な時間が取れず、良い作品ができない、ということがあります。でも逆もまたしかりで、日々の生活をおろそかにして仕事ばかりになってしまうと、そこにはリアリティがなくなって作品の面白みもなくなってくるんじゃないかと。つまり、自分自身の生活、人生をしっかり生きてこそ、仕事も充実して作品も豊かになる、そうした生活と仕事のバランスが、この映画の中で主人公のアンナというキャラクターを通して、自分が探求したい、描きたいと思ったことなんです。

池ノ辺 素敵ですね。では、最後の質問になります。パルマソン監督にとって「映画」とは何ですか。
パルマソン その答えは、年を重ねるにつれて少しずつ変化していくんじゃないかと思います。我が家では、家族のお気に入りの時間の一つがみんなで集まって映画を観ることなんです。同じ空間で、誰かと一緒に1本の映画を観る、同じ体験をする、それが映画の大きな醍醐味だと思います。そうやって誰かと一緒に時間を過ごし、一緒に何かを体験し、その体験を分かち合う、ということが共感を生み、人間の芯の部分を育んでくれるんじゃないか、私はそう考えます。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
監督・脚本・撮影
1984年9月30日、アイスランド・ヘプン生まれの映画監督、脚本家、美術作家。もともとはビジュアルアートの分野で活動を始め、その後映画制作へと転向し、2013年にデンマーク国立映画学校を卒業。長編デビュー作『ウィンター・ブラザーズ』 17)が高い評価を受け、続く『ホワイト、ホワイト・デイ』 19)はカンヌ国際映画祭の批評家週間で上映された。3作目となる『ゴッドランド/GODLAND』 22)は、同映画祭 ある視点」部門に選出されている。現在は妻と3人の子どもたちと、アイスランドとデンマークを拠点に活動している。

北欧・アイスランドの田舎町。芸術家のアンナは、しっかり者の長女イダ、わんぱくでいたずら好きな双子グリムールとソルギス、そして愛犬パンダと暮らしながら、芸術家としての道を模索していた。若くして結婚したものの、今や“もう夫婦ではなくなった”はずの元夫マグヌスは、いまだに情を断ち切れず、何かと理由をつけては家を訪ね、食卓を囲み、ピクニックにまで付き合う始末。気がつけば、まるで“まだ家族”であるかのような日常を再び送るようになるが‥‥。
脚本・監督:フリーヌル・パルマソン
出演: サーガ・ガルザルスドッティル、スベリル・グドナソン
配給:NOROSHI、ギャガ
© STILL VIVID, SNOWGLOBE, HOBAB, MANEKI FILMS, FILM I VÄST, ARTE FRANCE CINEMA
2026年7月3日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
公式サイト kireppashi_ai_NOROSHI