Jan 09, 2025 interview

八木康夫プロデューサーが語る 40年前の小さな約束を形にしたNetflixシリーズ「阿修羅のごとく」

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脚本と撮影へのこだわりから見えてくる敬意と品格

池ノ辺 今回驚いたのは、脚本としてそのまま向田さんのお名前があったことです。向田さんの脚本をほぼそのまま使われたということですよね。

八木 そうです。もちろん現代に置き換えて別の脚本家で、ということもできなくはないでしょうけれど、そもそもが向田さんの脚本ありきのドラマですから、時代設定も含めてそのままでやろうと。ただ、先ほども言ったように、ひと晩で1話書き上げる勢いで書かれているため、辻褄が合わなかったり偶然が多いというところがあったりして。その辺りを監督が、手を入れてブラッシュアップしてくださいました。

池ノ辺 本作を拝見したんですが、全然古さを感じさせないドラマでした。とても面白かったです。おかしくてちょっと泣けて。当時、NHK版のドラマも、見ていたのですが、まだ幼かったのでわからないところも多かったんです。それが、自分も歳をとっていろいろ経験した今になってみると、向田さんが描いていた女の人生の毒みたいなものも見えてきて、もっと面白く拝見しました。それと映像がとても美しかったですね。

八木 撮影は瀧本幹也さんにお願いしています。瀧本さんはスチールカメラの世界でも巨匠のおひとりなんですが、映像も『そして父になる』『海街diary』など是枝監督作品を手がけられています。しかも今回はシリーズ作品ではありますが、フィルムで撮っているんですよ。

池ノ辺 そう、それも驚きました。

八木 今どきフィルムだと金がかかるなと、僕なんか思ってしまうんですが(笑)、でもその辺はこだわりですよね。見る方にもフィルムの良さが伝わればいいなと思っています。

池ノ辺 フィルムのなんともいえないザラザラ感とか、その時の雰囲気が鮮やかに表現されていてよかったです。音楽も、あの昔のテーマ曲へのオマージュなのかなと感じるくらい、あの曲が蘇ってきました。伺っていると、ずいぶんスムーズに進行したようですが、大変なこともありましたよね。

八木 撮影自体は大きな問題はなかったのですが、それをどこで作品を流すかということについては、最初からNetflixさんでと決まっていたわけではなくて、いろんな可能性を探っていました。

池ノ辺 本作は世界に向けて配信されますが、反応が楽しみですね。八木さんは、ずっとテレビドラマの世界を歩んでこられたわけですが、八木さんにとってドラマとはなんでしょうか。

八木 基本的にはエンターテインメントだと思います。ですから、それを見ている時間、楽しんでいただければ、それが一番のドラマの使命だと思っています。その上で、登場人物に感情移入して、視聴者が自分のこととして振り返ったりする、そんなきっかけになってくれたら、嬉しいですね。それから、僕はホームドラマを多く作ってきたので、できればご家族一緒にご覧頂き、いろいろ会話が弾んでくれたら嬉しいですね。最近手がけたNHKさんの「団地のふたり」(2024)もホームドラマです。一時期ホームドラマが廃れていた感じがあったんですが、最近また復活しているのはいいことだと思っています。

池ノ辺「向田邦子の恋文」も期待しているのですが(笑)。

八木 生誕100年の企画とかですかね。

池ノ辺 楽しみに待ちます。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理

プロフィール
八木 康夫(やぎ やすお)

企画プロデューサー

1950 年生まれ、愛知県出身。73 年に TBS に入社し、83 年『昭和四十六年 大久保清の犯罪』を皮切りに、プロデューサーとして数々の名作を手がける。2018 年に TBS 退社後はフリーのプロデューサーとして活躍。主な作品は、ドラマ『うちの子にかぎって…』(84~87)、『イエスの方舟』 (85)、『パパはニュースキャスター』(87)、『協奏曲』(96)、『魔女の条件』(99)、『百年の物語』(00)、『さとうきび畑の唄』(03)、『おやじの背中』(14)、『人生最高の贈りもの』(21)、『忠臣蔵狂詩曲 No.5 中村仲蔵 出世階段』(22)、『ガラパゴス』(23)、『団地のふたり』(24)、映画『涙そうそう』(06)、『ハナミズキ』(10)など。

作品情報
Netflixシリーズ「阿修羅のごとく」

ある冬の日。竹沢家の四姉妹が久しぶりに集まった。活け花を教える長女・綱子、専業主婦の次女・巻子、図書館で司書として働く三女・滝子、そしてウエイトレスの四女・咲子。滝子の話では、母・ふじと暮らす老齢の父・恒太郎には愛人と子どもがいるという。信じられないとは思いつつ、母の耳には入れないことを誓い合う4人。しかしこの騒ぎをきっかけに、女性たちの日常に潜む、さまざまな葛藤や秘密が明るみに出る。

監督・脚色・編集:是枝裕和

原作・脚本:向田邦子

出演:宮沢りえ、尾野真千子、蒼井優、広瀬すず、本木雅弘、松田龍平、藤原季節、内野聖陽、國村隼、松坂慶子

Netflixにて独占配信中

作品ページ netflix.com/阿修羅のごとく

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。最新作は『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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