Aug 21, 2021 interview

第74回カンヌ国際映画祭 全4冠受賞作 映画『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介監督が語る、編集や予告、映画作りの視点について

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予告編はロードムービーか、サスペンスか?

池ノ辺 そうやって組み立てられた3時間の映画から、私たちは予告編で30秒や90秒にするわけですが(笑)、今回の予告編は担当者もすごく難しかったって言ってました。

濱口 どこがそんなに?

池ノ辺 良い作品だと難しいんですよ!

濱口 なんですって!?(笑)

池ノ辺 アハハ(笑)。良い作品だと、好きなカットをたくさん予告編に入れたくなるんですよ。それを30秒に凝縮するのはとっても難しい。逆に、あんまり・・・という作品は、バッサバッサと・・・これはあんまり言っちゃいけないですね(笑)。今回は予告編をロードムービーで見せるか、サスペンスで見せるかということを、宣伝の担当者もすごく迷っていました。宣伝担当の星さん、そうでしたよね?

 予告編は短い尺なので、作品の本質を見据えながらもより多くの方に引っかかりを持っていただくにはどうしたらいんだろうかと考えたときに、サスペンスか、ロードムービーか、どちらに寄せたほうが良いのかと予告編ディレクターと相談しながら進めていて、30秒の予告編については、その2つの方向性で2本作ることにしました。90秒予告編は2つの要素を入れた形になりました。

池ノ辺 こういう相談が宣伝のみなさんと予告編のディレクターであったんですよ、監督。

濱口 この映画自体がその要素がどちらもあるので、予告編でどちらにするかを考えるのは難しかったのではないかと想像しますが、30秒の段階ではそれが小分けされていて、90秒になったものは、ちゃんとその2つの要素が融合されていますね。最終的にサスペンス的な方向に落とし込まれていて、観客のみなさんにも興味を持って見ていただけるんじゃないかと思っています。

池ノ辺 お褒めいただいてありがとうございます(笑)。そういう意味では予告編の仕事はOKになったカットが集まって完成した映画から、さらにそこから選んだカットをつないで、なおかつ最後まで見せないで、面白そうだと伝えていかなければいけない仕事になるんですが、監督は予告編って作ったことはありますか?

濱口 自主制作時代は、けっこう作ったりしました。僕は予告編を作るのがけっこう好きなんですよ。もちろん大変なんですが、画と音を自由に構成するという点では、予告編は作品の新たな可能性を感じさせてくれるので面白いです。ただ、やはり物語をちゃんと伝える観点から作るというのは本当に難しい。どのくらいの塩梅で見せるかというのもすごく難しいので。星さん、予告編の評判はどうですか?

 すごく良いです。SNSでも予告編を見て観たくなったと仰ってくださる方もたくさんいるので。

濱口 こんなに良いショットだったのかというのが、物語の中にあると見えづらくなっていたものを、予告編を通じて発見するショットもありますね。

池ノ辺 今回、そういうショットはありましたか?

濱口 僕が思ったのは、道に立つ岡田くんを車から撮ったショットで、本編ではけっこう間抜けなシーンなんですけど、すごくカッコよく使われていたので(笑)。

池ノ辺 あのショットだけで物語の奥行きを感じられるものになっていましたね。だけどあれはね、やっぱり岡田くんがカッコいいから。

濱口 そうなんですよ。