Aug 21, 2021 interview

第74回カンヌ国際映画祭 全4冠受賞作 映画『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介監督が語る、編集や予告、映画作りの視点について

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サーブのエンジン音はもうひとつの台詞

池ノ辺 この作品が1シーンごとに刺激されるのは、やっぱり脚本が面白いというのもあると思いますし、撮影も素晴らしいので風景が変わっていくことにも惹かれました。でも撮影中はコロナで一時ストップしたそうですね?

濱口 そうです。もともと釜山で撮る予定だったものが、コロナで海外に行けないので広島になったりとか、中断はすごく大変ではありました。中断期間が8か月あったんですけれど、その時間があったことは、その後の準備と考えると無駄ではなかったと思います。

池ノ辺 監督はその期間、不安じゃなかったですか?

濱口 プロデューサーは胃を痛めたと思いますが、再開できるという前提でポジティブに捉えていました。

池ノ辺 また再開したときって、役者さんたちに変化はありましたか?

濱口 社会状況が変わり、その状況の中でそれぞれ経験したことがあったりして、雰囲気は違ったと思います。これを作ることの意義というものが共有されたというか、みんなでこれを作ることの尊さとか、結構そういうものを感じながらやっていたように思います。

第74回カンヌ国際映画祭 全4冠受賞作 映画『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介監督が語る、編集や予告、映画作りの視点について

池ノ辺 私はけっこう車に乗るので、サーブのエンジン音がすごく素敵に聞こえたんですよ。

濱口 あれはリアルエンジン音を使ってサウンドミックスしていますね。

池ノ辺 あの音が良かったからサーブになったんですか?

濱口 これは原作がサーブなんですが、サーブという選択自体が村上春樹さんのセンスというか、そういうものがあったんじゃないかと思います。僕自身は車のことは分からないんですが、良い車だなと思いました。

池ノ辺 あのエンジン音を聞くたびに、ドキドキしましたよ。劇場でちゃんと見てもらいたいと思うことの1つがあのエンジン音ですね。短い距離を行き来するときと、遠距離を走るときで違うのが、すごくドキドキして。エンジン音が聞こえてくる度に、この後どこへ行くんだろうと思いながら見ていました。

濱口 エンジン音はサーブによる台詞であり、同時に音楽みたいなもので、大事なものだと思っていたので、そう言っていただけるとい嬉しいです。

第74回カンヌ国際映画祭 全4冠受賞作 映画『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介監督が語る、編集や予告、映画作りの視点について

池ノ辺 映画の公開が間近に迫るときって、監督はどんな気持ちでいらっしゃるの?

濱口 カンヌや試写会で観た方はいるわけですけど、まだこの作品が多くの方には届いていないので、これから観客の方に届いたとき、そのときに初めて映画の形が分かるということがあるんじゃないですかね。予告編で映画の見え方が変わるみたいに、いろんな人の感想が入り乱れてくることで、そういう映画だったのかということが、ようやく分かってくると思います。

池ノ辺 最後に、監督にとって映画ってなんですか?

濱口 それはよく問われるんですが、驚きそのものだということだと思います。自分が映画をやっているのは、基本的に映画を映画ファンとして見ていたときの驚きという原体験としてあるからですね。映画は基本的には現実を映して成り立っているものなので、そこで得た驚きというのは、この世界が持っている力に対して驚くということですね。だから、自分も観客が驚けるような物を作りたいと思っているし、そのためには自分がまず現場で驚かなくてはいけないと思っていて。

池ノ辺 今回も、そうした驚きが現場でいくつもあったんじゃないですか?

濱口 そうですね。役者さんにずっと驚き続けていたように思います。

池ノ辺 公開初日を迎えたら、お客さんの反応にまた新しい驚きがありそうですね。

濱口 はい、そうあってほしいと思っています。

インタビュー / 池ノ辺直子
構成・文 / 吉田伊知郎

プロフィール
濱口 竜介(はまぐち りゅうすけ)

映画監督/脚本家

1978年12月16日、神奈川県生まれ。08年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』がサン・セバスチャン国際映画祭や東京フィルメックスに出品され高い評価を得る。その後も日韓共同制作『THE DEPTHS』が東京フィルメックスに出品。東日本大震災の被害者へのインタヴューから成る『なみのおと』、『なみのこえ』、東北地方の民話の記録『うたうひと』(11~13/共同監督:酒井耕)、『親密さ』(12)、『不気味なものの肌に触れる』(13)を監督。15年、映像ワークショップに参加した演技未経験の女性4人を主演に起用した5時間17分の長編『ハッピーアワー』が、ロカルノ、ナント、シンガポールほか国際映画祭で主要賞を受賞。カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出された商業映画デビュー作『寝ても覚めても』(18)、ベルリン国際映画祭で銀熊賞受賞の短編集『偶然と想像』(21)、脚本を手掛けた黒沢清監督作『スパイの妻〈劇場版〉』(20)がヴェネチア国際映画祭銀獅子賞に輝くなど、これまで国際的な舞台でその名を轟かせてきた。商業長編映画2作目となる『ドライブ・マイ・カー』(21)は、原作に惚れ込み自ら映画化を熱望、脚本も手掛ける意欲作。

作品情報
第74回カンヌ国際映画祭 全4冠受賞作 映画『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介監督が語る、編集や予告、映画作りの視点について
映画『ドライブ・マイ・カー』

妻との記憶が刻まれた車。孤独な二人が辿りつく場所。
俳優であり演出家の家福は、愛する妻と満ち足りた日々を送っていた。しかし、妻は秘密を残して突然この世からいなくなってしまう。2年後、演劇祭に愛車で向かった家福は、ある過去をもつ寡黙な専属ドライバーのみさきと出会う。行き場のない喪失を抱えて生きる家福は、みさきと過ごすなかであることに気づかされていく。

監督・脚本:濱口竜介

原作:村上春樹 「ドライブ・マイ・カー」 (短編小説集「女のいない男たち」所収/文春文庫刊)

出演:西島秀俊 三浦透子 霧島れいか/岡田将生

配給:ビターズ・エンド

©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

8月20日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか 全国公開

公式サイト:dmc.bitters.co.jp

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、「ボディーガード」「フォレスト・ガンプ」「バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ」「マディソン郡の橋」「トップガン」「羊たちの沈黙」「博士と彼女のセオリー」「シェイプ・オブ・ウォーター」「ノマドランド」ほか1100本以上。最新作は「フレンチ・ディズパッチ」。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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