山田涼介という映画スターを見つけだした。
──ハードのお話しをいただけましたので、続いてはソフトのお話しを。アルは俳優の水石亜飛夢さんが声だけでなく、全編に渡りモーション・キャプチャーで演じられています。まさに、日本のアンディ・サーキス誕生の瞬間を見た気持ちでした。
アルに命を吹き込めたのは、水石くんの存在なくしては語れません。いくらCG技術が発達したと言っても、命までは吹きこめません。水石くんが素晴らしい演技を見せてくれたからこそ、アルはスクリーンの中で生きた存在になりました。まさに水石くんは、CGという鎧に魂を“定着”させてくれたんですね。技術が進んでも、作品に息吹を込められるのは、人の力だけですね。ただ、彼はものすごいイケメンなので、顔をお見せできなかったのはもったいないなぁと(笑)。
──(笑)。水石さんを始め、キャスト陣の演技が技術に負けじと素晴らしかった。
みなさん、スゴい役者さんがベストを尽くしてくれました。まず、エド役の山田涼介くんが本当に素晴らしい。彼の演技は色々な作品で拝見していて、とても素晴らしい役者だとは知っていました。ただ、山田くん本人に会うまでは、キラキラとしたアイドルのイメージがあるので、女子力が高い方なのでは?と心配していました(笑)。エドは非常に男らしいキャラクターなので、大変な役作りをしてもらうことになるのではと思っていたら、実際に会ってみると実に男っぽい!日頃からエドみたいで。これならば、役作りに苦労するというよりは、むしろエドの幅をより広げることができると思いました。
──監督から演出を加えられたりは?
山田くんは原作をよく理解している上に、実にクリエイティヴな役者で。こちらから何かを言う前に自主的にやってくれるので、自由に演じてもらい、しかもほぼ一発でキメてくれました。アクションも全て自身で演じ、演技に関してもコミカルさからエモーショナルさまで見事に使い分けて……非の打ち所がない、というのはこのことなんだと。映画スターって彼のような人を指すんだなとつくづく思いました。
──技術革新を見せると同時に、新たな映画スターも見出したんですね。
見つけてしまいましたねぇ。今回はきっと観る方の多くが、俳優陣の演技に驚くと思います。むしろ『ハガレン』に関しては、技術力を見どころにする必要はまったくないと思っています。それは『ハガレン』という原作自体が持つテーマやドラマが完璧に仕上がっているからこそ。そこにキャストの素晴らしい演技が加われば、それだけで大満足の作品になると思います。あくまで、映像技術は縁の下の力持ち。作品をよりよくするための“彩”で十分です。
見たことがない大泉洋、見たことがないディーン・フジオカがそこにいた!
──確かに、今回は技術革新に驚く以上に、キャラクターの内面が丹念に描かれていることが原作ファンとして強く思いました。そこで曽利監督がこだわりを見せた部分は?
無駄な台詞を口にせず、感情を肉体のパフォーマンスで表現してもらう、ということこそが映画の醍醐味だと思っていますので、今作でもセリフ以上に動きに気持ちを乗せてもらいました。途中、エドとアルの兄弟喧嘩がありますが、まさにあそこはそうですね。山田くんと水石くんの素晴らしい演技があり、そこに少しのエッセンスとして技術が加わることで、誰も観たことがないほどのエモーショナルなシーンが出来上がる瞬間って素晴らしい!!と思います。
──そのエモーショナルさが作品全体を貫いていましたね。曽利監督として、この場面は白眉だった、というのはどこでしょう?
場面というよりは、本田翼さん、松雪泰子さん、この二人にはヤラれてしまいましたね。本田さんは原作への愛がものすごいので、どの場面を演じても自分の想像をはるかに超えていて、自分が求めたものを倍返ししてくれて。彼女も山田くん同様にクリエイティヴで、どんどん提案してくれてどんどん拾っていってくれるので、本田翼が作り上げるウィンリィはものすごく面白かった。松雪さんは、ラストの“ふくよかさ”を出すために、ウェイトを増やしてくださって。役作りのために身体を変えるのは相当大変なことなのに、よくぞやってくださった!という想いです。また、原作全巻にアニメ全話を御覧になられて勉強されたので、世界観への寄り添い方がものすごいんです。山田くん、本田さん、松雪さんに引っ張られて、他のキャスト陣も相当入れ込んでくれて、見たことがないディーン・フジオカがそこに!見たことがない大泉洋がそこにいる!という現象が、現場のそこら中で起こっていたのが演出をしていて面白かったですねぇ。……語りたいことはまだまだ、『ハガレン』の話は1日だけでは語りつくせません。
──最後に、曽利監督が映画監督として大切にしていらっしゃる、本を一冊ご紹介いただければと。
……洋書で申し訳ないのですが、「The Making of The Godfather」。これは感銘を受けました。この本は、私の大好きな映画『ゴッドファーザー』(72年)の文字通りメイキング本で、これを読んだ時に「……コッポラ監督でも、こんなに苦労しているんだ」と思いまして(笑)。どれだけ名監督と呼ばれる人でも、七転八倒を繰り返し、苦しみの中で一つの映画を作り上げているんだ知った時、モノを作るということに楽な道などないんだと。『タイタニック』にスタッフとして参加した時も、ジェームズ・キャメロン監督の苦しみも嫌というほど伝わってきました。どの監督さんもみなさん同じように、モノを創造する苦しみは共通していて、誰一人楽はしていない。でも、その苦労を乗り越えた先があって、観客のみなさんに喜んでいただけるものが生み出せる。そういうことを改めて身に染みさせてくれたのは、この本のおかげです。
取材・文/ますだやすひこ
撮影/中村彰男
曽利文彦(そり・ふみひこ)
1964年5月17日生まれ。大阪府出身。USC(南カリフォルニア大)大学院映画学科に留学中にジェームズ・キャメロンが設立したVFX会社デジタル・ドメインに参加、『タイタニック』のCGアニメータースタッフに加わる。帰国後、2002年に『ピンポン』で監督デビュー。同作で、第26回日本アカデミー賞優秀作品賞、優秀監督賞を受賞。その後も『APPLESEED』(04年)、『ベクシル 2077日本鎖国』(07年)といったフルCGアニメ作品を制作、実写映画としては『ICHI』(08年)、『あしたのジョー』(11年)がある。
映画『鋼の錬金術師』
累計7,000万部を突破した大人気少年漫画がついに実写化。『ピンポン』(02年)など、最新のVFX技術を駆使し、漫画的世界観を完全再現してきた曽利による手腕がこれでもかと発揮されており、冒頭の、エド(山田涼介)とアル(水石亜飛夢)の兄弟とコーネロ(石丸謙二郎)の対決からクライマックスを迎え、その勢いのまま最後まで一気に駆け抜けていく。中でも危険なスタントに自ら志願したという山田の見せる動きは、コミカルな部分を含めまさにエドを完全再現。原作者・荒川、アニメ版『鋼の錬金術師』のエド役、朴璐美が驚嘆したのも頷ける。息を飲む派手なアクションシーンだけでなく、兄弟とウィンリィ(本田翼)が紡ぐ深い絆、“綴命(ていめい)の錬金術師”ショウ・タッカー(大泉洋)の欲望が見せる人の業の重さといった、原作者・荒川の大切にしてきたドラマツルギーを見事に描写。原作ファンである曽利の“ハガレン愛”が感じ取れる。
原作:荒川 弘「鋼の錬金術師」(「ガンガンコミックス」スクウェア・エニックス刊)
監督:曽利文彦
出演:山田涼介 本田 翼 ディーン・フジオカ 蓮佛美沙子 本郷奏多/國村隼 石丸謙二郎 原田夏希 内山信二 夏菜 大泉 洋(特別出演)佐藤隆太/小日向文世/松雪泰子
脚本:曽利文彦 宮本武史
音楽:北里玲二
主題歌:MISIA「君のそばにいるよ」(アリオラジャパン)
配給:ワーナー・ブラザース映画
2017年12月1日(金)全国ロードショー
©2017 荒川弘/SQUARE ENIX ©2017映画「鋼の錬金術師」製作委員会
公式サイト:http://hagarenmovie.jp
「鋼の錬金術師」全27巻 荒川弘/スクウェア・エニックス
2001年~10年にかけて「月刊少年ガンガン」で連載されていた作品。幼い頃に亡くなった母にもう一度会いたいという一心で錬金術において最大のタブーである人体錬成を行ったエドワード・エルリックとアルフォンス・エルリック兄弟。しかし錬成は失敗し、兄は左脚を、弟は全身を失ってしまう。エドワードは自分の右腕を失うことと引き換えにアルフォンスの魂を錬成して、鎧に定着させることに成功し、なんとか一命を取り留める。大切なものを失った絶望の中、兄弟は「元の身体に戻る」という決意を胸に、その方法を探すべく旅に出る。
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The Godfather Notebook」著:フランシス・フォード・コッポラ
1972年公開、映画史に燦然と輝く名作『ゴッドファーザー』。当時32歳の新進気鋭の映画監督であったフランシス・フォード・コッポラが、いかにしてこの大作を生み出したのか?そのプロセスを完全に解き明かす一冊。原作小説を分解し、そこに自身の膨大なアイディアとイメージでシノプシス(あらすじ)として肉付けしていくという、コッポラの当時の脳内模様を忠実に再現。その中身、実に700ページ以上。資料としてもドキュメントとしても一級品。ちなみに日本語訳版の発売の予定は現在までなし。乞う翻訳版。