Nov 19, 2017 interview

曽利監督に聞く、『鋼の錬金術師』実写化を実現した最新技術と俳優・山田涼介の魅力

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『ハガレン』から日本の映像技術の革新が始まる

 

──『ハガレン』を動かすために、「革新的な撮影技術を使用した」と仰っていました。今作では、その技術をどのように用意され、活用されたのでしょう?

今作のためにというわけではなく、私はハリウッドに追い付くための技術を作るために、OXYBOTというスタジオを作り、映像制作や技術開発を行ってきました。簡単に言ってしまえば「料理を作るために畑を耕し食材から作りましょう」という感じで。今作のアルは、これまで研究を重ねてきた成果の一つ。言ってしまえば『アベンジャーズ』(12年)のアイアンマンレベルのクオリティのCGを目指しました。映画史の中で、アルから日本のCG技術はハリウッドに追い付きましたね、と言われるぐらいの存在になったと、私たちは勝手に思っています。

──まるで、スーツアクターが鎧を着て動いているような滑らかさで。画面の向こうのアルフォンスはまさに“生きて”いました。

ありがとうございます。国産のCG技術でここまでできました。何より、このレベルに達しなければ、『ハガレン』実写化は成立していなかったと思います。

──昨年の8月には撮影が終了したとのことですので、約1年かけてポスト・プロダクションを繰り広げていたということかと。2時間にわたりフルCGのアルを登場されるのは相当大変だったかと思います。

日本映画で主人公の一人としてハリウッドクオリティのフルCGキャラクターが、出ずっぱりというのは、これまでなかったと思います。その達成感を観客のみなさんにもぜひ共有していただきたいです。ハリウッドでしかできなかったことが、日本でもできるんだ!となれば日本映画界の夢が広がるじゃないですか。『アベンジャーズ』もそうですし、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16年)のドロイド「K2-SO」と変わらない技術で作りましたので、世界に向けて『ハガレン』のアルは日本のCG技術の良いプレゼンになったと思います。原作ファンの方には、アルがいる!と思っていただけるはずですし、映画ファンの方には、邦画のこれからが楽しみ!という想いで見ていただけると思います。

 

 

──これまで『APPLESEED』(04年)、『ベクシル 2077日本封鎖』(07年)、『ドラゴンエイジ -ブラッドメイジの聖戦-』(12年)と、曽利監督が手掛けたフルCGアニメの技術の結実と共に、新たな1ページを捲った感じですね。

そうですね。まだ『APPLESEED』の頃は、CGでリアルかつ写実的な実存感が出せないからアニメーションという形をとりました。でも、今はその場にいるリアルな方向へと舵を切れましたので、今ならば『APPLESEED』は完全実写映画化できます。

──それはスゴイ!!

今作では、アル以外に、もう一つ大きな技術革新を用いていまして。それは“背景”です。

──“背景”、と言いますと、あのリゼンブールの豊かな田園風景といった街並みですか?

いえ、今作は1ヶ月イタリアでロケを行いまして、街並みは全て現地そのまま。他にも、観た方から劇中に登場するSLがフルCGなのでは?と言われるのですが、あのSLは本物です。100年前に実際に使用されていたもので、どうしてもあのSLの重量感、実存感が欲しくて、あのSLを求めイタリアでのロケを決めたぐらい。

 

 

──となりますと、どの“背景”に技術を用いられたのですか?

やはり1ヶ月という滞在時間では全て撮りきれないというのがありまして。特に冒頭のリオールの街中での戦闘シーン。アルが大暴れするシーンなどはそもそもスケジュールに収まるものではありませんでした。そのため今回の映画では街並みごとデジタルで再現する大規模なバーチャルロケを行っています。映画撮影用のカメラをつけたドローンを飛ばし、街並みを全てスキャンするようにくまなく撮影しました。その映像素材をベースにして街そのものをCGで再現しました。

──あのアルの戦闘シーンは全編フルCGだったということですか!?

はい。イタリアの石畳の街並みをCGで再現して、そこでフルCGのアルを大暴れさせました。実際にイタリアで撮影したエドの戦闘シーンと、CGで制作したアルの戦闘シーン、違和感なかったですよね?

──……違和感ないどころか、ままに思えました。

それはよかった(笑)。先ほど『APPLESEED』が実写で作れると言ったのはまさにそこ。まず、アルが作れたということは、ブリアレオスも作れます。でも、背景はムリでしょ?となりますよね。でも、こうして街並みをスキャンして、そこからCGで加工していけばどんな時代の背景も作れます。決して夢物語ではなくなってきたんですね。

 

 

──「ピンポン」の試合中の観客席をフルCGで制作されてから、15年、想像以上のステップアップを果たしましたね。

『タイタニック』(97年)の頃には、ハリウッドの足元にも及ばなかった技術は、今、ようやくその尻尾を捕まえたくらい近くまできました。あとは、バジェットの問題だけでしょうか……(苦笑)。

──マーケットの違いがありますからね(笑)。

こればかりはしょうがない。『ハガレン』をキッカケに、マーケットが広がったら、日本映画も楽しい時代に入れるんじゃないかと思います。

──『ハガレン』の公開が、日本映画の技術の新たなスタートを呼び込みそうですね。

そうなったら嬉しいですね。この作品のVFXのメイキングはきっと面白いものになると思います。絶対に「えっ!?」と思うようなものが多々あります。ハリウッドの技術に慣れてしまった方も、日本でハリウッドと同じぐらいのものができるじゃん!と、驚いてもらえるはずです。日本には世界に誇れる素晴らしいコンテンツや、素晴らしいストーリーテラーがたくさんいらっしゃいます。となると、そこに映像技術が伴えば、日本から新たなエンタテインメントが発信できる時代が来ると思っています。これから本当に楽しみです。