――先ほど、まだまだやらないといけない役があると仰ってましたが。
役というか、俳優として勉強しなければならないことは沢山あります。それは、僕の場合セリフのうまさや表現力というよりは、生き様だと思います。僕は「上手とか下手とか」よく分からないし、技術を磨くことももちろん大事でしょうが、俳優として「どうやったら人間の深みというか、その人物に見えるのか」ということの方に面白みを感じているんです。だから皺がどれだけ深くなってシミがいっぱいできるかの方が重要です。先週海外から帰って来たんですが、『ワン・バトル・アフター・アナザー』(2025)を機内で観ていたんです。あの映画のショーン・ペンを観て、“皺の深さすげえな”って思って(笑)、あれは彼の生き様ですよね?生きて来た証。私生活は破天荒で世の中にダダ漏れなのに役として見れてしまう面白さ。そう考えるとやっぱり生き様だと思うんです。
映画『ミラクルバナナ』の時の緒形拳さんのお話を聞いたのですが撮影前に何日もただその土地を歩かれていたそうです。雷が落ちたような衝撃を受けましたね。目から鱗ですよ。今後は自分の人生を豊かにしていくこと。大切に一つ一つ丁寧にやっていくことだと思います。ただただ漠然と生きるのではなく、色んなことを感じながら生きていくことが大事。そして心と身体の健康を充実させること。タフでいることです。70歳になっても、80歳になっても、「全然、台詞覚えられますよ」と言える体力と脳みそをいかに維持していくか、だと思います(笑)。

――それは旅行に行くとか、人と会うとかですか?
もちろん人に会うことも、旅行に行くこともそうです。でも作品に入れば、そのロケ地にできる限り早く入り、撮休があっても帰らず、その作品のことだけを考え、その役として生きることを目指す。戸田菜穂さんから聞いた話ですが、三國さんは東宝のスタジオで撮影していた時、朝、セットから歯みがきをしながら出てこられたそうです。「ここに住んでるから、俺はここに泊まっている」と。ぶったまげましたよ。僕にはその発想がない。本当に凄いと思いました。そりゃそうですよね。そこに家があるからそこで生活している。当たり前ですが、そんなことできません(笑)。
――ちなみに仲代さんはどうだったんでしょうか。
仲代さんから黒澤明監督の映画の撮影時の話はよく聞きました。『乱』(1985)のメイクは夜中の2時から準備を始めて、5時間かかったとか。5時間もかけてスタンバイしているのに、黒澤監督が「雲が違う」となり、撮影は中止。夜寝ないで皆で麻雀をし、そのまま夜中の2時から準備。といった話をされていたような記憶があります。
『乱』では実際に燃えている城の中から狂乱した仲代さんが出てくるシーンがありますが、仲代さんしかあそこには居なかったらしいです。黒澤監督が「スタート!」と言っているのに、仲代さんがもうちょっと大丈夫じゃないかと思って我慢していたら、黒澤監督が「仲代君、出てこい!」と叫んだそうです。そんな面白いエピソードがいっぱいあるんです。本当に先輩達は凄まじい爪痕を残していらっしゃいますよね。そんな俳優になりたいです(笑)。
滝藤賢一さんとのお話は面白すぎて尽きないんです。会えば最近見て良かった映画の話をし、ダイエットの仕方も聞いたりして。そんなフレンドリーな滝藤さんが役者では台詞を上手く喋るは分からないから、生き様をブラッシュアップするというお話は、大いに頷いてしまいました。そして自分とは考え方の違う役を演じる場合も自分に落とし込めるまで考えるというスタイルも、演じることが好きな滝藤さんらしい気がしてその様子が目に浮かびました。どんな作品にも印象に残る俳優。その理由はなんなのか、これからも見つめていきたい役者さんです。

48歳の建築デザイナーの中原博史は、仕事の出張帰りにふと故郷・鳥取の倉吉を訪れる。墓参りを済ませた帰路、なぜか彼は1963年の町へと迷い込み、“14歳の自分の身体”に戻ってしまう。だが意識は48歳のまま。彼は思春期の少年として、再び家族と向き合うことになる。そこには若き日の母、妹、祖母、そして、やがて突然家を出て失踪する父の姿があった‥‥。
監督・脚本:錦織良成
出演:大谷亮平、及川桃利、磯谷萌々子、戸田菜穂、滝藤賢一
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
©︎2026 映画「遥かな町へ」BARCOS
2026年10月9日(金) 全国公開
公式サイト harukanamachie.jp
