第38回(2025年)東京国際映画祭で最優秀女優賞W受賞を果たしたのは、『恒星の向こう側』で娘役を務めた福地桃子さんと母親役の河瀨直美さん。その作品をオリジナル脚本で書き上げ、監督を務めたのは『やがて海へと続く』などの中川龍太郎さんです。奈良と北海道・野付半島で撮影された過去と現在を対話で繋ぐ母と娘の物語は、母親の顔色をうかがって生きてきた娘【未知】が結婚をして母【可那子】から離れたものの、母親の余命を知り、再び向き合おうとすることで自身の再生に繋がっていくという魂の物語。
しかも河瀨直美さんと言えば、普段は『あん』や『たしかにあった幻』などの監督。そんな河瀨さんと俳優として共演することになった福地桃子さんから見た撮影現場は、どうだったのでしょうか。今回は奈良での自然と調和した撮影の様子はもちろん、ドラマや舞台「千と千尋の神隠し」、そして映画に引っ張りだこの今、自身の演技への向き合い方についても伺いました。

――映画は奈良が舞台なので、美しい景色と共に“あれ?これは偶然の産物か? ”と思うようなシーンもありました。映画の公園のシーンで登場する鹿は完全に自然な感じでしたが、あれは本番撮影中に入って来てしまったのですか。
そうですね。ピクニックのシーンは、撮影場所は決まっていたんですけれど、鹿への演出はしていないと思います。本当に自然に鹿がそこにいたという感じで、撮影に参加してくれました。何度か登場する池にも、鹿がたくさん居て、鹿煎餅を持つとすぐに集まってきてくれて。奈良にいる鹿は、本当に人馴れしているんだなと思いました。
――中川(龍太郎)監督が、奈良で撮影するなら“鹿を入れたい”と思われたのかもしれないですね。
全然予想していなかったことなのですが、【未知】が初めて母親の【可那子】に感情を出し、「治療を受けて欲しい。」と伝えるシーンは、実際の奈良の町で撮影しています。ロケだったので何が起こるかわからない状況でした。本編では、【未知】がバッグと買い物袋を持っていたと思うのですが、脚本の段階では、その買い物袋が、言い合いをしているうちに破けてしまうみたいなことが書かれていました。だけどそのシーンを撮影している時に鹿が入って来て、落ちたりんごを食べ始めてしまったんです。【可那子】を演じる河瀨(直美)さんの偶然に対しての反応の仕方が素敵で。撮影を通して、映画作りに対しての愛を強く感じていました。


――福地さんは演じる役に対して意識することなく自然と動いているように思えました。椅子の座り方1つとっても柔軟というか。椅子の座り方など脚本には描かれていませんよね。
あの動きはどうしてしていたのか…。自然と動いていたんだと思います。私はあまり「この人はこういう人だ」ということを決め切って撮影に入るということがなくて。言語化するタイミングは、取材を受ける今このタイミングなのかなと。一旦、時間をおいてから整理できていくような気がします。
――【未知】という女性についてはどういう人間か、今、どう思いますか。
【未知】は、相手が思っていることを感じやすいからこそ、それを受けることも出来るし、流すことも出来る、かわすことも出来る、というようにその選択を常にしている人なのではないかと思っています。受けたり、かわすことの積み重ねで、自分の中で気づかずに溜まってしまった発散出来ていないものがある、とても繊細な人だと思っていました。母親である【可那子】に久しぶりに再会する時、本当の自分を知っている母親と対峙するという恐怖がもしかしたらあったのかもしれないと思っていました。



