Jun 17, 2026 interview

岡本多緒×黒崎煌代インタビュー カンヌ女優賞受賞作『急に具合が悪くなる』で見つめた、“わからない感情”の先にあるもの

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――【智樹】について話すこととは別に当事者の方達に会ったりしたんですか。

黒崎 そうですね。役の作り方としては当事者の方は何を思っているのか、関係者の人は何を思っているのか、そして【智樹】は何を思っているのか、この三点を自分の中で考えていました。当事者の人は何を思っているかに関しては、自閉症の方が書いた本を読んで知識を得ました。関係者はどう思っているのかについては、施設を訪ねて勉強をさせて頂きました。【智樹】については、濱口監督と話し合いましたね。その三つの要素で徐々に作り上げていきました。

――凄いですね。本当に皆さん凄いです。多緒さんに至っては日本語とフランス語、さらに長回しでのシーンも多い。ホワイトボードで現在の資本主義について説明するシーンを観た時に、“これは女優賞か? ”と勝手に想像していました。

多緒 え~、本当ですか?

黒崎 あのシーンはやばいです。観客が急に受講者になる。映画であんな体験は無いですから。

――あんなシーンにトライするとは。もちろんがんを患っている役という身体的なこともあると思いますが、あのシーンは役者として凄く大変だと思います。多緒さんの環境問題への活動や社会に対しての発信を知っていたので、これもキャスティングされた理由だとも思いました。

多緒 あのシーンを読んだ瞬間にも“これ、私じゃないか”と思ったんですよね (笑)。普段考えていることが、より洗練された形で言語化されているみたいな感じがしました。だから“絶対にやりたい”と思ったし、それに何というか、ちょっと異質な感じがありますよね。濱口監督の違う作品でもありますけど、あのシーンについてあまり立ち止まって考えずに、とにかく“走り抜けなきゃ”という感覚で演じていました。本当にセリフも長くて難しかったですし。出来上がった作品を観た時は驚きました。

――あのシーンのセリフはすべて脚本に書かれている通りですか。アドリブは入っていますか。

多緒 アドリブは入ってないです。

黒崎 恐ろしいです。

多緒 一般的に考えるとあれだけ長くて難しいシーンは、途中でセリフを噛んでしまったり、間違えてしまったりしたら「とりあえず最後までやって、そこだけを撮り直そうか」となったり、カットを割って撮ることが多いんです。でも濱口組では、詰まったら「じゃあ最初からもう一回やりましょう」とふりだしにに戻る。正直“しんどい‥‥”と思ったこともあります。でも完成した作品を観た時は、監督の粘りのわけがわかった気がします。

――そこから【マリー=ルー】役のヴィルジニーさんとまた違った深まり方をするという点でも、なおさら。

多緒 あれは原作でもちょっとお二人がピリっとなる瞬間があるので、そのエッセンスを入れようといいう気持ちが、濱口監督の中にあったみたいです。“その含みのあるような言い方は、私に何か言おうとしてるの?”みたいなドキッとする瞬間に、芽生えていた友情が一瞬揺らぎそうに思えるところを原作から引き抜いたみたいです。