園子温が冨手世代に勧める本とは?
──otoCotoでは毎回、クリエイターのみなさんに愛読書や読書遍歴についてお訊きしています。『毛深い闇』など小説も執筆されている園監督ですが、お勧めの本は?
園 どの時代に遡るかによって、本も変わってくると思います。でもちょっと前、いやけっこう前だけど、大島渚監督が「映画監督はあまり本を呼んじゃダメだ」と言っていたらしいと聞いて、あまり本を読まなくなってしまった(笑)。だから、あまり萌え立つほどの読書体験はないけれど、それでもまぁまぁ読んではいると思います。
──冨手さんのような若い世代にお勧めの本となるとどうでしょう?
園 若い人に勧めるのなら、やはり古典でしょうね。それこそ、ドフストエフスキーの『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』は読んでいてほしいです。
冨手 園さんに『カラマーゾフの兄弟』はお借りしたままです。
園 えっ、『カラマーゾフの兄弟』は貸すような本じゃないでしょ(笑)。
冨手 そうか、ドフストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』と『白痴』は園さんに勧められて、自分で買ったんだ。自宅にあります。
園 あるだけで、読んでないでしょ(笑)。
冨手 いえ、読みましたよ。『白痴』は上中下と3巻あって、中巻までしか読めていませんが……。
園 ほんとかなぁ。『マンガで読む名作』とかで済ませたんじゃないの? でも、古典はね、やっぱり若いうちに読んだほうがいいと思います。あと、僕にとって愛読書と言えるのはヘンリー・ミラーの『北回帰線』。僕は日本文学より海外のものが好きです。映画もそうだし、音楽もそう。海外のものしか触れないようにしている。日本の文学はまったく読まないわけじゃないですが、有名どころは読んでいません。
──私小説を中心にした日本文学と邦画は、すごくミニマムな世界を描いているところで共通していますね。
園 そうですね。音楽にもそれは言えると思います。
──冨手さんの愛読書は?
冨手 漫画でもいいですか? 私、丸尾末広さんの漫画が大好きなんです。『少女椿』に『芋虫』、それに『パノラマ島綺譚』は読むと元気になれますね(笑)。小説だと夢野久作の『ドグラ・マグラ』。
園 元気が出てくるんだ(笑)。
冨手 はい、パワーが湧いてきます。最近読んだ本だと『教団X』が面白かったです。
園 最近の作家の小説を読んでも、消えてしまう人が多いよ。僕が小さい頃から芥川賞作家はたくさんいましたが、どんどん消えていってしまいました。そう考えると自分が生まれる前からいるドフトエフスキーのほうが価値があるように思えるんです。将来、孫ができたら「おばあちゃん、どんな本を読めばいいの?」「おばあちゃんの薦めた本、どこにもないよ」と言われないように(笑)。基本、僕は映画を撮るときは、何代も後に残るものを作りたいと思っています。今年ヒットして、評判になっても、5年後、10年後に残っているかどうか分からない。映画雑誌のランキングで第1位を獲っても、あっさり消えてしまう作品もある。それよりかは50年後にみんなが観ているような映画でありたいと思います。そこを狙っているというか、そこしか狙っていない。映画の面白さって、年月を経ることでワインみたいに熟していくことにあると思っているんです。だから、映画監督は時代との勝負です。今年の勝負より、100年の勝負です。大きく言えば、100年後に残るような作品じゃないと面白くないと思いますよ。
冨手 『アンチポルノ』は150年後に残る作品だと思います!
園 冨手さんがしわしわのおばあちゃんになった頃、孫が「映画の中のおばあちゃん、すごくキレイだね」と言ってくれるよ。
冨手 はい、そんな作品になったなと思います(笑)。
取材・文/長野辰次
撮影/名児耶洋
園子温(その・しおん)
1961年愛知県豊川市生まれ。ベルリン映画祭ヤングフォーラム部門に出品された『自転車吐息』(90年)で商業監督デビュー。1999年に文化庁新進芸術家海外研修制度を利用して、米国に留学。帰国後に発表した『自殺サークル』(02年)が大きな反響を呼び、『Strange Circus 奇妙なサーカス』(05年)、『紀子の食卓』(06年)と問題作を連発する。満島ひかりを主演に迎えた『愛のむきだし』(09年)はベルリン映画祭にて「カリガリ賞」「国際批評家連盟賞」を受賞。その後は『冷たい熱帯魚』『恋の罪』(11年)、『ヒミズ』『希望の国』(12年)、『地獄でなぜ悪い』(13年)、『TOKYO TRIBE』(14年)、『新宿スワン』(15年)と快進撃を続けている。監督作『新宿スワンII』は1月21日(土)より公開される。
冨手麻妙(とみて・あみ)
1994年神奈川県生まれ。2009年に「オーディションAKB48・第8期研究生オーディション」に合格し、芸能界デビュー。『新宿スワン』『リアル鬼ごっこ』『みんな!エスパーだよ!』(15年)と園子温監督作品に続けて出演し、米国のMTVが製作したオムニバス映画『MADLY』の中の園監督が撮った短編『Love of Love』にも出演している。2016年12月には初めての写真集『裸身_初号』が発売されたばかり。
園子温監督にとって初のロマンポルノ作品。園監督はかつてパフォーマンス集団「東京ガガガ」を主宰するなど、詩人&パフォーマーとしても知られ、元AKB48の研究生・冨手麻妙を主演に迎えた本作では、園監督の作家性とアート性が炸裂した78分間となっている。
売れっ子作家・京子の1日が描かれるが、極彩色の部屋に篭った京子の生活はどこまでが現実なのか、それとも虚構なのか、定かではない。冨手の思い切りのよいヌードに加え、『淵に立つ』(16年)などの話題作に出演しているベテラン女優・筒井真理子もマネージャー典子役で迫力の演技を見せ、京子と典子の従属関係が逆転していく展開から目が離せない。
園監督のお気に入りの女性カメラマン・伊藤麻樹が撮影を務め、園監督が執筆した小説『毛深い闇』(河出書房新社)の装画にも使われた篠原愛のアート作品「女のコは何でできている?」が劇中に使われるなど、園監督の手による毒気の強いガールズムービーと言ってよさそうだ。
『アンチポルノ』
監督・脚本:園子温
出演:冨手麻妙、筒井真理子、不二子、小谷早弥花、吉牟田眞奈、麻美、下村愛、福田愛美、貴山侑哉、長谷川大、池田ひらり、沙紀、小橋秀行、河屋秀俊、坂東工、内野智
配給:日活 R18+
1月28日(土)より新宿武蔵野館、横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国順次公開
©2016 日活
『毛深い闇』園子温/河出書房新社
園子温監督の故郷・愛知県豊川市を舞台にしたミステリー小説。ミツコという名前の少女の眼から角膜が剥がされる連続猟奇殺人事件が起き、女子高生・切子は好奇心を抑え切れず、犯人探しを始めるが……。深夜のファミレスでの仲間たちとの無駄話をはじめ、10代の少女たちの退屈な日常とぽっかりと空いた心の闇の深さがリアリティーたっぷりに描かれる。小説ならではのアプローチ方法で少女たちの内面世界に迫った、これもまた園子温ワールドである。
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『カラマーゾフの兄弟』ドストエフスキー
ロシアの文豪ドフトエフスキー最後の長編小説。大富豪カラマーゾフ家の家長フョードルが何者かに殺され、大金が盗まれる。父親と不仲だった長男ドミートリィに殺人の疑いが向けられるが、真犯人は意外な人物で、裁判は思いがけない方向へと転がっていく。無神論者の次男イワンが“神は存在するのか”“神がいるのなら、なぜ悪が存在するのか”について信心深い三男アレクセイに向かって語り掛ける詩劇「大審問官」は、現代人も知っておきたい人類永遠の命題だ。
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『少女椿』丸尾末広/青林工藝舎
耽美的な画風で知られるベテラン漫画家・丸尾末広の代表作。母親を病気で失った少女・みどりは見世物小屋で働くが、芸人たちに虐められる悲惨な毎日。だが、ワンダー正光という凄腕のマジシャンにみどりは気に入られ、ワンダーの持つ不思議な力によって、みどりは次々と願い事を叶えていく。薄幸の美少女みどりは、人気アニメ『新世紀エヴァンゲリヲン』のヒロイン・綾波レイのルーツになったという都市伝説が存在するほど、1984年の刊行からカルト的な人気を誇り続けている。