Apr 28, 2019 column

平成から令和へ――最後の三日間、何を観る?平成を感じさせる日本映画10選

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新しい時代・令和がもうすぐ幕を開ける。そこで平成時代を回顧すべく、1989年から30年の間に劇場公開された10本の実写邦画を、平成という時代性を感じさせるという視点からセレクトしてみた。どれも、連休中にじっくりと見直したい名作&話題作だ。いろんな事件やブームが起きた平成の30年間を、映画を観賞しながら振り返ってみてほしい。

日本映画に革命をもたらした天才芸人
『その男、凶暴につき』(1989年)

平成元年(1989年)は、ビートたけしこと北野武が監督デビューした記念すべき年として記憶される。脚本家・野沢尚と深作欣二監督によって『灼熱(仮題)』の製作準備が進められていたが、主演に予定された売れっ子芸人・ビートたけしと深作監督との撮影スケジュールが合わず、深作監督は降板。急遽、ビートたけしが監督を務め、本名の北野武の監督名義で公開されることになった。

暴力刑事(ビートたけし)と裏社会のヒットマン(白竜)との抗争は熾烈さを極め、観る者を圧倒した。説明的な台詞をいっさい排した乾いた演出は、それまでの邦画にあった湿度の高いイメージを一掃するものだった。

北野監督は自身の脚本による『3−4X10月』(90年)でより猥雑な北野ワールドを花開かせ、さらに『ソナチネ』(93年)へと進化を遂げ、“世界のキタノ”と呼ばれるようになる。バイク事故からの復帰作『キッズ・リターン』(96年)を経て、独自の死生観を描いた『HANA-BI』(98年)はベネチア映画祭金獅子賞を受賞。アカデミー賞長編アニメ賞とベルリン映画祭金熊賞を受賞した宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』(01年)やアカデミー賞外国語映画賞に輝いた滝田洋二郎監督の『おくりびと』(08年)に先駆け、海外での日本映画の評価を高めた北野監督の功績は大きい。

日本で増殖した都市伝説は、世界へと“感染”した
『リング』(1998年)

平成を代表する最恐ホラー映画といえば、中田秀夫監督の『リング』に尽きるだろう。作家・鈴木光司が1991年に発表した同名小説は、昔からある“不幸の手紙”や明治時代のオカルト事件といった都市伝説をモチーフにしたミステリー要素の強い内容だった。映画が公開された90年代後半はマスコミで連日にわたって狂牛病や鳥インフルエンザ問題が報道され、貞子の呪いが無差別に感染していくというフィクションは現実のニュースと融合し、かつてない恐怖譚へと変異していった。呪いの感染源がVHSテープというのも時代を感じさせる。

誰にも真似できない呪いのビデオを生み出した中田監督は、『ザ・リング2』(05年)でハリウッドデビューを果たすことに。オリジナルビデオとして始まった『呪怨』シリーズの清水崇監督もハリウッド版『THE JUON/呪怨』(04年)をスマッシュヒットさせ、三池崇史監督の『オーディション』(00年)や黒沢清監督の『回路』(01年)も海外で絶賛。Jホラームービーは、世界中へと感染していった。『イット・フォローズ』(14年)などの近年のハリウッドホラーにも、その影響は感じられる。

低予算でつくられた『リング』シリーズだが、実に多くの女優たちを輩出している。松嶋菜々子、中谷美紀、竹内結子、佐藤仁美、佐伯日菜子、深田恭子、石原さとみ、橋本愛、山本美月……。さらに韓国版『リング』(99年)のペ・ドゥナ、ハリウッド版『ザ・リング』(02年)のナオミ・ワッツも人気女優となった。底知れぬパワーを秘めた貞子は、実は福の神という一面を持ち合わせていたと言えないだろうか。