冨手が園監督の前でヌードになれた理由とは?
──女性の視点で描かれた『アンチポルノ』ですが、現代社会に対する園監督の怒りや不満が込められているようですね。
園 基本的に“日本人はみんな女性”だと思っています。振り回される人たちばっかりなので。とにかく、男も女も消費され尽くされる国。それがこの国の定めなので、そこは描こうと思っていました。僕は日本映画という枠の中で生きつつも、うまいこと消費されかけていた時期があって、とても辛かったんです。冨手さんはグラビアやっていて、男たちの文化の中で消費されていた。アイドルをやっていたことも含めてね。そういう消費文化の一員でもあったわけで、それが嫌だなと思いつつも、その中に自分もいた。だから『アンチポルノ』は女性のことを代弁しているけど、自分自身のことでもあります。あるいは今の消費社会で生きている多くの人のことを代弁していると言えるんです。
冨手 園さん、世間的には男らしいイメージかもしれません。女優を罵倒し、厳しく演出する監督のイメージだけど、実はすごく女の子らしい。私より女性らしいと思います。
園 いや、本当に僕は女なんで(笑)。
冨手 『アンチポルノ』は知らない人が観たら、女性監督が撮った作品だと思うくらい、女性らしい作品になっていると思います。園さん自身、すごく女性らしいし、だからこそ脱ぐことにも抵抗がなかったし、園さんへの信頼感もあった。園さんに安心して任せられたのは、園さんの持つ女性らしさがあったかもしれません。
園 まぁ、この映画では「脱ぐ」、じゃなくて「着ていく」だしね(笑)。
──『アンチポルノ』のアンチには、いろんな意味が込められているように感じられます。
園 ポルノに対するよりも、社会全体に対する怒りを作品の中に取り込んでいます。撮影したのは2015年の夏で、国会が安保関連法案で大揺れしていた時期でした。2015年の夏に感じた僕の心情を映画の中に入れた感じです。あのときにしか撮れないものを撮ろうと。実際に国会議事堂前にいちばん人が集まった日に、主人公の京子が自宅を飛び出して、デモ行進の先頭を歩くシーンもゲバ撮影したんです。僕が心の師と仰ぐ大島渚監督が『新宿泥棒日記』(69年)とかでゲバ撮影しているのと同じような感覚で、虚構世界が突然現実にまみれていくというシーンを予定していたんです。でも、いかんせん編集したのがそれから1年半後だったことから、そのシーンはカットすることになりました。撮影して、すぐに公開する時代だったら、違ったでしょう。でも映画の中に空気としては残っていると思います。
園監督はエスパーだった!?
──「この国の女は誰ひとり、自由を使いこなしてはいない」という台詞がとても印象的。
冨手 私もその台詞、言うんです(笑)。でも母にも言われました。「同じ台詞だけど、筒井真理子さんとあなたでは言葉の重みが違う」と。私も映画を観て、そう感じました。私も筒井さんと同じくらい女優としてのキャリアを積んで、ああいう深みのある台詞を言えるようになりたいですね。ただ、あの台詞自体には私はすごく共感しました。台本を渡されて「何を言ってるんだろう」というよりは「あっ、分かる」と思ったんです。園さんが書いた今回の台詞はどれも自分自身の気持ちとして、すごく素直に口にすることができました。言いにくい台詞はなかったですね。
園 『アンチポルノ』の台本を書く少し前に、ある出版社と組んで『女性論』という内容の本を書き出していたんです。現代の女性についてリサーチしてみると、今の日本で女性が働く条件は酷いなぁと改めて思ったことに、けっこう影響を受けているかもしれないです。その本はまだ出版されてなくて、というか本を書くのを一時止めて、映画にしちゃったんです。そういった時代性も入っていると思います。
──『アンチポルノ』は、園子温流“女性論概論・序章”であると?
園 そうですね、今回は女性論というのが大きい。女性にとっての労働であるとか、AVだとかアイドル文化だとか、女性に対する極端なポルノ的視点があるにもかかわらず、公園にある裸の彫像にパンツを履かせたりとか、極端から極端へと走る、この国のSEXに対する考え方も含めて、まるで冗談みたいなへんてこな世界だと思うわけです。虚構の世界なのか本当に現実の世界なのかと判断できないような世界に、この国はなっているわけです。普通じゃない台詞ばっかりだったから、自分の書きたい台詞を書いた感じですね。
冨手 私自身が感じていたことだけど、どう言葉で表現すればいいのか分からずにいたことを、園さんに台詞にしてもらったように思います。どの台詞も自分が抱いていた感情だったので、言いづらいことはなかったです。後から「とんでもない台詞を言ってるな」とは思いましたけど(笑)。私、6歳違いの妹がいるんですが、園さんはエスパーかと思いました。私がまだ小さい頃に「妹はいつ作ったの?」「私が幼稚園に行ってる間に作ったの?」と両親に尋ねたことがあるんです。母は淡々と答えてくれたんですが、父が「そんな下品なことを訊くな」と怒り出したのがすごく印象に残っていて。劇中に似たシーンが出てくるので、園さん、なんでそのことを知っていたんだろうと。この話、しましたっけ?
園 いや、聞いてないよ(笑)。
冨手 『アンチポルノ』はまさに私の幼い頃の思い出が書かれた、私自身の物語だと思う台詞が多かったんです。園さん自身の言葉でもあるけれど、私自身のことでもあったなと思っているんです。