May 15, 2018

コラム

ラジオドラマ最大のメリットとは?

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 NHK‐FMの今回のドラマは、山口県周防大島を舞台にしている。なので山口県の方言が出てくる。実は吉本実憂さんは福岡県北九州市出身。山口県とはお隣なのだ。ぼくは海峡をまたいだ山口県下関出身なので、本当にすぐ隣。なので、よく知っている。
「山口の方言、北九州に近いでしょ?」
 と聞くと、
「ええ。だから、やりやすいです」
 と彼女は微笑んだ。可愛い「方言女子」を演じていた。
 紅甘さんは東京生まれ東京育ち。しかしドラマでの彼女の役柄はもっとも地元色が濃く、やや広島弁にも近い山口の方言。なのに意外にうまいのに、ビックリした。
 岸本華和さんは、役柄上標準語でもOK。とはいえ彼女は関西の人なので、それはそれで苦労があったかもしれないが。

 3人は初対面だ。最初は遠慮しつつ演技をしていた。しかしやがて、お互い出番がないシーンでは、なにやらペチャクチャとお喋りを始める。お昼をはさんで午後になると、もっと親し気に会話がはずんでいた。
 若い3人(21歳・17歳・21歳)のそういった様子を見ているのは、副調整室にいるプロデューサー、ディレクター、音響効果、作家…といった、すっかり大人になり過ぎたぼくたち。
「彼女たち、ずいぶん仲良くなってますね」
 休憩時間に3人は、(ドラマの中の女子高生3人に対し)「青春だねぇ~」と感想を述べたりもしている。それを聞いて、
「いや、いや。あなたたちみんな、そう変わらない年齢なのに」
 とぼくたちは微笑ましく思っていた。
 どうやら、吉本さん紅甘さんの2人は今後同じ時期に京都での仕事があるらしい。「今度は京都」「え、私も京都!」と驚き合っている。それを聞いて、関西の岸本さんは京都のおいしいお店の情報など教えている。
(3人はきっと、京都で再会するんだろうなあ)
 なんて、ぼくはぼんやり思った。
 その時、かつてNHKラジオで多くのドラマを演出した川口泰典ディレクターに教えられた言葉を思い出したのだ。

「藤井さん、映画にもテレビドラマにもない、ラジオドラマ最大のメリットは何だと思いますか?」
「セリフを覚えなくていいこと?」
「それもあります」
「見た目に縛られないから、年齢と違う役、意外な役もできること?」
「それもあります」
「えーと、えーと…、他には、う~ん…??」
「ラジオドラマ最大のメリットは、順録りできることですよ」
「あ!」

 映像がある映画やテレビドラマは、同じセットやロケ場所でのシーンをまとめて撮影することがある。しかしドラマの流れ上、最初の方とおしまいの方だと、その間に役の上での心情は変化している。もちろんプロの役者さんだから、その変化は演技で表現しているのだが、やはり素直な感情ではないだろう。
 その点ラジオドラマはセットの制約がない。なので、たいていは脚本通り頭から順に録音していく。順録りだ。すると、ドラマの役柄の心情に寄り添って、役者さんの気持ちも変化していける。だから、無理のない演技ができるのだ。たしかにこれは大きなメリットだ。

 今回のドラマは、女子高生3人が力を合わせヨットレースに出る話だ。3人は途中ぶつかったりしながらも、しだいに協力し、お互いを思いやる。その物語の進行に並行して、だんだん仲良くなる3人の女優の感情がシンクロする。すると、終盤のセリフが自然で、力強いものになっていった。まさに、順録りの勝利だ。
 夕方。残りあと2シーンほどになった時、吉本実憂さんは台本をめくりながら、ぽつりと呟いた。
「ああ、もう終わっちゃう」
 それは、ぼくたち制作陣への最高のプレゼントなのだった。

※NHK‐FM・FMシアター「海を駆ける」は、5月19日(土)22時から放送予定です。

 

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藤井青銅

藤井青銅(ふじいせいどう)
23歳の時「第一回・星新一ショートショートコンテスト」入賞。これを機に作家・脚本家・放送作家となる。

書いたラジオドラマは数百本。腹話術師・いっこく堂の脚本・演出・プロデュースを行い、衝撃的デビューを飾る。最近は、落語家・柳家花緑に47都道府県のご当地新作落語を提供中。 著書「ラジオな日々」「ラジオにもほどがある」「誰もいそがない町」「笑う20世紀」「あなたに似た街」「【悲報】本能寺で何かあったらしい……光秀ブログ炎上中! 歴史Web2.0」…など多数。

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