ドラマ『陸王』が好まれる理由
『陸王』の魅力は、『半沢直樹』から綿々と続く勧善懲悪(正しく努力したひとが報われる)、判官贔屓(弱い者を応援してしまう)な展開だ。 5話はとくに、飯山と大地のやりとりが良かった。 「やっぱり部品は生命線ですか」と聞く大地に、 「部品はしょせん部品だ ほんとうに大事なのは人だよ」と飯山は説く。 「絶対に代わりがないのはものじゃなくて人だ」 「もっと自分にプライドをもて。ただの部品になるな」 「ほんとうに大事なのは、自分と自分の仕事にどれだけ胸をはれるかだ」 被雇用者たちは、自分たちをしょせんは企業の“部品”と考えてしまいがちだが、部品なんていう人間はいない。みんな同じ人間で、部品は人間が使わなきゃ機能しない、と力強いエールが贈られた。 さらに、エールの最たるものといったら、1話ごとに訪れる、弱いけれど正しく努力した結果、巨大なずるいものに勝つときに流れる、リトグリことLittle Glee Monsterの『ジュピター』。平原綾香のヒット曲のカバーで、その歌詞には「ひとりじゃない」というフレーズが念を押すように3回出てくる。ここを見たさ(聞きたさ)に、毎週見てしまうといっても過言ではない。つまりこれが『水戸黄門』における印籠タイムである。ここで1週間の疲れが一気に浄化されるのだ。 『陸王』を見ていると、なんだかんだいっても、人間は正しさを希求しているのではないかと思えてくる。毎週、規則正しく、ドラマの終盤に、真面目にコツコツやっている人が報われ、そこに励ましワードの入った歌が流れるだけで、なんだか、日々、なにかと乱される心にあかりが灯り、平静を保てるような気がする。 そんなことを意識したのか、画面もじつに端正だ。トラックを走る選手を追うカメラ、広めの空間を壁のラインと平行にすーっと動いていくカメラワークなどなどけっしてハデではないが美意識を感じる。 陸王のソールを村野が「ゆるみゆがみがいっさいない。それでいてしなやかだ」と評価する場面があるが、まさに映像もそのとおり。チーフディレクターはもはや池澤ドラマに欠かせない福澤克雄。撮影は、橋本智司、大西正伸。橋本は『半沢直樹』や『リーダース』、大西は『半沢直樹』にも参加している。 ほかに、撮影、照明、録音などの技術面全般をとりまとめる、テクニカル・ディレクターの須田昌弘の存在も大きいのだろう。須田はこれまで『JIN-仁-』、『天皇の料理番』、『カルテット』などに携わっている。また、八津弘幸の脚本も同じく。むだのない、削ぎ落とされていながら、隙がない。淡々と事実を重ねていくそれが速さと熱になる。 ただ、あまりにも洗練されていて、それゆえに、『半沢直樹』や『下町ロケット』的な起爆力はないかと、3、4話あたりで心配になっていたところ、5話では、アトランティスの社員・佐山(小籔)がやたらと顔を歪めて悪役を強調したり、飯山が金融業者らしき人物たちにボコボコにされるところがあったり、ひとつの成果を得た宮沢が喜ぶところが大きめアクションになったり、少しデフォルメをしたことも、視聴率アップにつながったのではないだろうか。 11月26日放送の6話では、2018年ニューイヤー駅伝で、陸王を履いた茂木がどこまで走れるか。ライバル毛塚(佐野岳)との対決はどうなるのか、やはり印籠タイムはあるだろうか。 ひとつだけ、何かと、やや左右どちらかに寄った正面のアップになるのは、ちょっと飽きてきた。とはいえ、正面アップのときの登場人物の顔が、役所や寺尾のようにシワが刻まれていようが、山崎や竹内のようにつるっとしていようが、どちらからも伝わってくる邪気のない、純粋な熱情は悪くない。文・木俣冬
番組情報
日曜劇場『陸王』(TBS 日曜よる9時〜)
原作:池井戸潤
脚本:八津弘幸
演出:福澤克雄ほか
出演:役所広司 山崎賢人 竹内涼真 上白石萌音 風間俊介 音尾琢真 和田正人 佐野岳 阿川佐和子 市川右團次 ピエール瀧 寺尾聰ほか
文・木俣冬
文筆家。主な著書に「ケイゾク、SPEC、カイドク」(ヴィレッジブックス)、「SPEC全記録集」(KADOKAWA)、「挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ」(キネマ旬報社) 、共著「おら、あまちゃんが大好きだ! 1、2」(扶桑社)、「蜷川幸雄の稽古場から」、構成した書籍に「庵野秀明のフタリシバイ」、ノベライズ「マルモのおきて」「リッチマン、プアウーマン」「デート〜恋とはどんなものかしら〜」「恋仲」「IQ246~華麗なる事件簿」など。
エキレビ!で毎日朝ドラレビュー連載。 ほか、ヤフーニュース個人https://news.yahoo.co.jp/byline/kimatafuyu/ でも執筆。
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